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「昨日の!」
「はいはい昨日の昨日の。元気になった?」
「おう!いやー助かった!ありがとう。」

にかりと笑うノーマルにお礼頂戴と手を差し出したおれは、こっちだと吊られていない方の手で手を掴まれ歩かされる

どのくらいの期間かわからないが薬は順調に減っている。もっとも、満足に口にしていないし、根や草をしゃぶるくらいで対した食事もとれていない
正直今いる場所が外であり殺伐としていない時点で終わったのも同然。見たところ(嗅いだところ)ノーマルしかいないようだし、当然薬の補給は望み薄

「やっぱりさ、」
「うん?」
「食事はいいや。」
「・・・じゃあ、なにがいい?」
「殺してくれ。」

さっきからちろちろと昨夜隅で寝させてもらった部屋から付いてくる気配たちの変化も、ノーマルのきょとん顔も分かる
ただ、衰弱死は本当に嫌なんだ。手元に獲物はあるが、それは折り畳めるタイプの弓矢で自殺には不向きだし、飛び降りるにしても何にしても意志の弱い自分じゃ一苦労
ならば、おれを訝しんでるやつに殺してもらったらいい

「なぜ、恩人を殺さなければならないんだ?」
「血生臭いから、慣れてると思ったんだ。もしかして、手を出したことはなかったか?」

それなら無理な見返り要求だったと謝ったおれの手がみしりといって、強く握られる
おろ?とノーマルをみれば、大分険しい顔でこっちを睨んでた

「死にたいのか?」
「え?あ、まあ、」
「人を助けながら、自分は殺したいのか。」
「・・・いや、最初はあんたのことも見殺しにしようとしてたから」
「楽しいことはきっとある。婚姻してややをこさえたり給金のいいとこで働いたり。第一、わたしは無益な殺生はしない。だから、わたしにそんなこと頼むな。」

食堂のおばちゃんがおいしいご飯つくってまってるぞと笑いながらかけだしたのに引っ張られ、自分にはよくわからない説教をそういうものかと飲み込んでついていく
どうせ、平均寿命30の、短命種なんだ

食堂につれられ席につかされてから、ノーマルは前に料理を並べてやはり笑った

「・・・あんたも食べるよね?」
「いいのか?」

じゃあいただきますと箸を手にしたノーマルはおばちゃんの料理はおいしいなぁと楽しげに食事をし、おれは味は兎も角栄養はありそうだと匙を口に運ぶ

「おいしくないか?」
「いや、わからないんだ。」

味覚がなくてねと肩をすくめて料理をかき込んだおれに生まれつきか?と聞いてくるノーマルは、代償だといったら理解できるのか
まあできないにしても知らない奴に丁寧に話すほどいい話ではないから、生まれつき。とだけ答える
そうなのかと単純に頷いてくれたからよかったものの、つっこまれたら面倒くさいから逃げただろう

「わたし、助けてもらったとき吃驚したんだ。」
「そう。」
「わたしみたいなのを軽々担いであんな速度を出せるなんて、そんな細っこい身体からは想像もできなかったし。」
「だろうね。」

筋肉がつきにくいのは体質だ。別に不便ではない
ぼちぼち強いし、つきにくいはそうだが結構筋肉質だし

「なあ、家はどこなんだ?」
「家は・・・客のとこを転々と。」
「暫くここにいないか?」
「いない。早く帰らないと薬がきれる。」

薬?と首を傾げるのをみれば、このノーマルがおれみたいのに関わり合いがなかったことがよおくわかる
総じて嫌悪を向けるのが外のノーマルだとわかってるから、飯の間くらいは話さないでおいた

「その髪、綺麗だなぁ・・・」
「ただの茶色だよ。」
「わたしも茶だが、そんなに淡く綺麗じゃない。」

手入れしろよと心の中で返し粗方ご飯を平らげたおれはそれじゃと立ち上がり、食堂から出ようとしたところで手を掴まれ阻止された
なんだ?と振り向けばノーマルがくりくりと抉りたくなる目を向けてここにいればいいと発する
黄昏種を知らないが故の奇行でも、イライラはするもんだ

「ないない。ノーマルと暮らすなんて無茶ぶりもいいとこ。」
「のーまるってなんだ?」

無茶ぶりってなんだ?と首を傾げまくるノーマルに頭を抱えながら、ここは本気でどこなんだと呟く
それを拾ったノーマルが忍術学園だぞと教えてくれたがそうじゃない。まず、地名を知りたいんだ

「地名って、国の名か?ここらの有名な城主の名でも言えばわかるか?そんな疑心に満ちた目で何を聞きたいんだ?」
「お前らノーマルがそうしたんだろ。」

きょとりとするノーマルの胸ぐらをつかみ壁に押し付ければ、向けられる殺気が強まる
一方、目の前のノーマルはきょとりとしたままこっちを見続けた

「お前らクソノーマルがっ、おれらを差別して追いやったんだろ!そんなノーマルの阿呆発言を疑わない理由がどこにある!!」
「・・・言ってることが少しもわからん。」
「ガキにゃぁそーだろうよ。」

言い合うのもくだらないと手を離し、タグをちゃらりと取り出す

「おれは黄昏種。化け物、ゴミ、害虫、色んな言われ方してるが、全く知らないわけないだろ?」
「え、知らん・・・」
「・・・どんな良いとこのぼっちゃんでもごろつきでも、知ってて当たり前だろ。」
「本当に知らんぞ。」

なに?と眉を寄せれば、ノーマルは詳しく教えてくれと同じように眉を寄せた

真面目な話、黄昏種をしらないノーがいるなんて思ってもみなかった