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人により「*」



「さぶろう!」

初めて会う奴に名前を呼ばれた瞬間、覚醒したように私は前世を思い出した
次々に溢れてくる記憶に堰を切ったように泣き出す私に向けられた泣き笑いは、これ以上なく私に何かを植え付けて、暫く雷蔵雷蔵とべったりと離れなかったんだ
まるで兄弟のように、周りなんてみる余裕もなく

「しょいかいするね、ぼくのにいさんだよ。」
「らいぞうの?にてないんだな。」

きょとんとする***は、本当の意味で子どもだった。私たちのように幼いという意味ではなく
***はいつも雷蔵のそばにいて、頭も良くて運動もできる奴だ。今だってそう
当時、雷蔵と***の親は雷蔵を少し嫌煙していて、***を贔屓しているように見えたから、私は***があまり好きではなく***にはうんと冷たい態度をとっていた
私が雷蔵といるせいで似てないのねと周りに言われることが多くなり、それにつれて***が泣き出しそうになればなるほど、私は言葉にしたら死にたくなるような優越感に似たどす黒い感情を覚えていったんだ

「雷蔵、先生から伝言で早く帰りなさいって。」

今でも鮮明に思い出せる、あの日はなんだか不安定な天気で頭が痛く、雷蔵は大丈夫?とすごく気にかけてくれていた
その放課後、少し寄り道をして帰ろうと約束していた雷蔵を***か呼び止め、早く家に帰ろうと手をつかんだ

私はとられると漠然とした恐怖を感じ、私は幼稚にも雷蔵になら簡単に見破れる嘘で引き止めた。最悪だ

「三郎ごめん、今日は家に」
「頭が痛いんだ、雷蔵。」

え?と首を傾げる雷蔵の手をつかみ、私は頭をおさえて泣く。嘘泣きだ

「前を思い出してっ、辛いんだ、雷蔵。」
「・・・三郎、」

雷蔵が優しいことを知っている。雷蔵が断れないことを知っている。雷蔵が、私を拒否しないことを知っている
だから、私は親から先生への伝言の意味も理由もなにも考えずに、私は、雷蔵と***の間に決定的ともいえる今に響く機会を与えてしまったんだ

「雷蔵はわたしのものだ!雷蔵行かないで、一人にしないで!」

暫くして一度家に帰ったであろう***か雷蔵を探しにきて、そしてお母さんがどっか出掛けたがら後を追わなきゃと雷蔵の手をつかみ
私はその手をほどいて雷蔵を抱きしめ、混乱する雷蔵を***に見せないように叫んだ
雷蔵と同じように混乱している***の後から***に似ている男が走ってきて、雷蔵は男を父さんと呼び***もお父さんと小さく呼んだ

「何をしているんだ!早くお祖父さんのとこへ行かなきゃいけないんだぞ!!」

私の腕から抜け出して数歩すすんだ雷蔵の頬がビシッとぶたれ、そこに父親の言葉
どういうことと震えながら口にする***を、私と雷蔵は思わず凝視してしまった。それほどに震えて青ざめていたんだ
しまったといった顔をした父親にしがみつきおじいちゃんどうしたの、まさか死んじゃわないよねとパニックを起こす様に、父親は***の手をつかんで雷蔵をみると、早く行くぞと走る
それを追った雷蔵はそれから少し学校を休み、後日祖父が亡くなったと教えられた

「兄さんは、祖父が・・・だいすき、な、んだ・・・」

充血気味の目を瞬かせて、雷蔵は色を無くした顔で私に抱きついて泣きだす。どうしようどうしようと、脅えるように泣いた

「僕のせいだ、僕のっ、兄さんが祖父に会えなかったのはっ!僕の、」
「雷蔵、何を言われたんだ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、僕っ、だってっ、」

***が帰ってすぐに出た母親は生きてるうちに会えて、そして祖父が呟いた言葉を泣きながらきょうだいと分かち合っていたのを***と雷蔵は聞いてしまったらしい
***はいつくるのかと、問う言葉を。***には絶対に聞かせないでと、周りも***の落ち込みぶりを知っていて頷いたその会話を

「お母さん、それ、ほんと・・・?」

***の、壊れかけの人間と同じ音を


「雷蔵、自分を責めないでくれ。私が、私が君を引き止めたせいなんだ。」
「違うよ、三郎。僕が選んでこうなったんだ。だから、僕が悪いんだ。」


だから、雷蔵と***をまた仲良くさせるのは、私のやらなければならないことなんだ