6 
「みんないないの、いなくたなっちゃった!おにいちゃ、やだっ、おにいちゃんまでいなくならないでぇっ・・・!」

ふぇええと泣く弟に、兄はいつだっていなくならないよと抱擁を与えてくれたのだ
それを当たり前と錯覚し、蔑ろにした罰だと自覚したのはいつだったか

老いて冷たくなる身体に縋るように泣き叫んだ兄が、いつだって笑ってくれた兄が、どんなときも味方であった兄が

「早く帰ろうって言ったじゃないか!なのにっ、なんで!!」
「ご、ごめ」
「喋れなくてもいい!ちょっとでいいから生きてるおじいちゃんに会いたかった・・・!」

わあああと泣く兄を父が慰め母がなぜか謝り、親戚中がワケを知って弟は完全に孤立する
兄のほうが評価が高く周りから好かれ、もう弟を庇ってくれた兄はいないのだから



「・・・兄さん、」

零時をまわってからの帰宅もざらな***の帰りを、雷蔵はいつもベッドに潜りながら待つ。いつか帰ってこなくなるのではと恐れているのだ

「兄さんっ、ごめんなさい・・・。」


戦の話をする祖父が苦手でした。貧しくひもじい過去を負に思っていない祖父が苦手でした。見合いの上での円満な想い想われ子宝に恵まれた祖父が羨ましくて、やはり苦手でした。
そう言ったなら、両親はため息混じりにこう言うはずだ、雷蔵は相変わらずねぇ、と


「僕が悪かったから、沢山謝るから、お願い許してっ、」

ぼろぼろとベッドを濡らしていく涙は、頭痛がしても止まってはくれない
もう何年も何年も夜になれば泣いて唸って、言い訳を並べて叫びそうになる

「兄さんだけが、信じてくれてくれたんだ・・・」

三郎がいないハチがいない兵助がいない勘ちゃんがいない。そう泣いてばかりな雷蔵を、***はいつも泣かないでと抱き締めていた
大丈夫かしらこの子と心配する周りに雷蔵は大丈夫だよと根拠もなく後ろに隠していた***に、雷蔵は三郎に再会するまでの短くて気の遠くなるほど長い間、おかしくならないでいられたのだ

「ああ、父さん?」

ダイニングからする声に細くドアを開けた雷蔵は、とぽぽぽと電話を肩と頬で挟みながら麦茶をくむ***をみつめ
元気元気、大丈夫だよ。そう笑いながら会話をする***に、僕もそれがほしいと唇を噛み締める

「順調だよ。僕への仕送りは減らしていいか、え?零は嫌だよ流石に。まだ親の脛かじらせて。」

麦茶を飲むと微かに喉仏が上下し、置いたコップに添えられる荒れた手がみえた
じゃあまた。と電話をきってシンクに寄りかかりながらメールを打つ姿を暫くみつめ、雷蔵はもう寝ようとベッドへと潜っていった


手に入らなくなったものを、請うのが人の愚かなり