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「バーゲンセールの商品になったみたいだった。」
「きっと、僕の家の前なんて大惨事だよ・・・」
「大丈夫、イケメン幸隆さんが捌いてくれてるよ。」

だといいけどとため息をつきながら仕事道具と化している教材(初回のみ学校で購入)の中身を広げた斉藤は、***の家に泊まってよかったとヤスリを確認する

ネイル検定が行われる今日
私をモデルにと押しかける女子たちを回避できた斉藤と家に直帰することがまずない***は、揃って爪(指先)の管理を徹底してくれたパートナーに礼を言った

「***くんのモデルできるなんてラッキー!」
「いや、僕はまだまだ素人だから。」
「少なくとも一年の中じゃトップだよ。タカ丸さんもそうだけど。」
「僕もまだまだ、父さんに遠く及ばないから。」

本当に一年目ー?とじゃれてくる女子たちに(ネイル学ぶのは)一年目。と返し、整った指先の最終調整
その真剣な横顔を盗み見た斉藤は今朝の***を思い出しながら、何があったのだろうかと心配になる
確かに***の話の中に両親以外の話が出ることはなかったし、その両親の話も僅か

「聞いてもいい?」
「ダメ。」
「早い!」
「今日内臓の調子悪いみたいだね。」

色が悪いなと指先をまじまじと見始めた***に斉藤はダメかぁと溜め息をつき、色変更するかとかちゃかちゃマニキュアを並べる***から自分のモデルへと視線を戻した
斉藤は***の実力を、***は斉藤の実力をよく理解しているため、互いがどれほど人気があるかをしっている

今回***の家に斉藤が泊まりたがったのも、うっかり(ヘアカット以外はしょっちゅう)今日の試験を忘れているっぽい***に気を使い且つ
家が知られているため私をモデルにと群がる女子生徒たちを回避するためだ

つつがなく終わった試験は斉藤も***も文句のない出来。モデルになった女子生徒も満足気だ
タカ丸はなんでも遊び心を盛り合わせるが、***は堅実に発想だけは遊び心盛り沢山なタイプなので群がる女子の種類はわかれる

「お腹すいたから食堂行こう?」
「勉強してていいなら。」
「いいじゃん質問させてよー!」
「一つだけならね。」

一番近い食堂でいいよねとあげていた前髪を下ろした***は、何聞きたいの?と指輪をはめ直した

「雷蔵くんとのこ」
「却下。」
「早いっ、気になるよー…」

気になるなー気になるなーとちらちらみてくる斉藤に口端をひくつかせ微妙な表情を浮かべた***は、はーっと長く息を吐き出すと髪型が乱れない程度に髪をかき別に大したことじゃないんですよと苦笑する
そして持ち歩いている物のどれよりうんと古くタイプの全く違うカードケースを取り出した***は、中にあるラミネートされた小さな写真を斉藤に見せた

「…誰、これ。」
「僕の母方の祖父。物知りな人で、戦中の話とか派生で食べれる雑草の話とか、祖母との結婚秘話や母の幼少期。色んな話を面白おかしく話してくれる人で、僕の一番大好きで尊敬してる人。」
「そうなんだ…随分お年を召してるようだし、写真もちょっと古そうだね。もしかして、隣の子どもは***?」

うん。と頷いた***が、車椅子に乗って皺だらけの顔を綻ばせる老人と横に立つ小学生くらいの少年の写真に微笑んだ。懐かしむように、悲しげに
あ、こんなとこで聞いたらまずかったな。と斉藤は後悔するも、途切れさせて次の保証はないので黙る

「最後に会った、五年のお正月。初詣に行こうって言われて、一緒に近所の廃れた神社に行ったんだ。亡くなったのはこれからすぐ。冬休みあけ2日で、先生からHRの後生き物係で残ってたら帰るように言われてね。帰ったら母がちょうど家をでるとこで、僕はまだ帰ってないアイツを待ってたんだ、父と一緒に。」
「***、」
「母は看取れたよ。僕は間に合わなかった。間に合わなくなってから、僕は祖父の危篤を知った。なんで早く教えてくれなかったのかと知ってから絶望して、なんで早く帰ってこなかったんだってアイツを罵った。」
「それは…でも、わざと遅くなったわけじゃないんだよね?」
「ああ、うん。アイツは前世からの友人との遊ぶ約束を優先させて、早く帰るってことを忘れてただけ。それだけだ。」

思わず擁護をしてしまいそうになった斉藤は、けれど完全にはしきれないほどに前世と今世を区別できている
そして、斉藤は***を親友だと思っているのだ

「…ごめんね、思い出させちゃって。」
「タカ丸さんだから、話したんですよ。」
「うん、ありがとう。」

凹んだんでお昼奢ってもらいますね。とカードケースをしまった***に、斉藤は財布事情に配慮をお願いした