2 
出されたお茶を一瞥もせず、***と名付けられた人型はお手本のような姿勢でそこにあった
向かい合う学園長は経緯をあの場にいた六年生に聞き終え二言三言交わして下がらせると、***にお主の名はと問う

「***。」
「どこから来たか、わかるかの。」
「名前以外、マスターの許可なしに答えられない。」

マスターの側にあるのが自分の存在理由とだけ告げ立ち上がった***は、聞き耳を立てていた気配(正しくはサーモセンサーの感知)に近づきマスターと笑うと
何でばれたんだろうとふり落ちない様子の伊作は天井から降りてなに?と首を傾げた

「何かお手伝いすることはありますでしょうか。」
「いや、特に・・・」
「ではお側におりますので、何かありましたらなんなりと。」

まるで伊作しか目に入っていないかのように接する***は、正しく伊作しか眼中になく
にこりと笑みを必ず浮かべたまま伊作をみていた

「・・・えっ、と、」
「はい。」
「あー・・・***のこと、よく知りたいんだけど。」
「仕様は先程述べましたとおりです。」

軽い足取りで地面に降りた***に周りは注目。それを気にせず一本の木の前で立ち止まった***は、くるっと一回転、回し蹴りを披露する
バキャッと簡単に裁断された木はズゥンという重い音で地面に倒れた 

「後は・・・」

呆気にとられる伊作より同室であり用具委員会委員長である留三郎が思わずやめろ!と叫んでもお構いなく、***は手のひらをぺたりと塀の壁に付け、押す。誰が想像するだろうか?地面を盛大に抉りながら塀が動くなど
みちみちと力の伝わりが弱くなっていく壁と負荷がかけられる境が悲鳴を上げ、結果境は崩れるように分断された

「お前!!」
「マスター、いかがでしょう?」

人の頭程度なら握り潰せますよと石をパン!と砂へと握る圧力だけで変えた***は、お役にたてますか?と傷一つついていない手を下げる
呆気にとられたままの伊作は気づけば目の前にいた***に驚き一歩下がり、家事も一流ですよとどこから取り出したのか?すらりとした包丁と脇差しの中間点にあるような刃物を取り出すとくるりとそれを回してしまった

「私はマスターを寿命が尽きるまで護るために作られましたから、遠慮はいりません!」
「・・・と、りあえず、あの、僕の部屋、くる?」

誰か助けてを飲み込んだ伊作がぎこちなく笑えば、***は笑みを濃くしてはい!と頷いた

廊下を歩こうが地面を歩こうが、仮に空を飛んでいたとして、善法寺伊作という人間は不運である
何もないところで躓き顔面強打などよくあること。限って受け身をとれないのもまた慣れたもの

今日も今日とて歪みなく躓いた伊作は前のめりに倒れかけたが、腹に手が回り込み足がふわっと浮いた

「・・・あ、りがと、」
「いえ!」

お怪我は?と聞いてくる***は難なく腕に一本で伊作が痣を作るのを防ぎ、当たり前とばかりに
笑う
その笑みはなぜだか、重ね重ねの不運にネガティブ一直線だったくせに人に嫌われたくなくて貼り付けていた伊作自身の笑みに似ていて、複雑な気持ちになりながら笑顔じゃなくたっていいんだからねと向き合った

「ではどのような表情がお好みでしょうか?」
「好み、というか・・・気持ちに合った顔、かな。」
「でしたら、笑顔で正解です。」

漸く会えたマスターに仕えるのは喜びですからと、***は笑ったまま
気になるのでしたら感情機能をきりますがと首を傾げる
それに試しに頷いてみた伊作はフッと顔の筋肉(正しくは筋肉ではない)から力がぬけ、活き活きとしていた目がただのガラス玉のように何も映さなくなってしまったことに息をのみ
君は一体、と呟く

「私は***。マスターに仕える万能型アンドロイド。」

声までも、冷たく無機質なものになっていた