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『ーーーtest program delete』

ピーッと高音が響き、数多のケーブルに繋がれる人型が起動する

『initializeーーstart preparation completed』

作り物の目がくるくると動き前に定まる。光が走れば、人の目のような瞳孔収縮がみられた
一歩踏み出せば人工皮膚に張り巡らされたセンサーが床を感知し、違和感なく数歩進んで立ち止まる

『profile set default langーーーsetup is now complete』

データが自動入力されていき設定が完了した瞬間、エンジニアの下へ通信が入った
通信を切ったエンジニアは深い溜め息をついてすぐに別の機械をセッティングすべく人型をみやる

「注文主が死んだそうだ。法に基づきF90WZOを飛ばす。システム起動。半年前に転送。」
『2813.2.25.12:00』

ブウンと低音が鼓膜を揺らし、人型は姿を消した

ブウンと同じような低音と共に人型が現れたのは上空
バレーボールをしている深緑の少年たちの真ん中へと落下した人型は、地面に僅かなクレーターを発生させつつ呆然としている周りを見回す
そして、一人の少年にピントをあわせ、何者だと臨戦態勢にはいる周りを無視してそちらへすすんだ

「マスター!漸くお会いできました、名前を登録下さい!」

がっしと手を掴んだ見た目生身の人型に、伊作は狼狽えた
訳も分からずてきとーな名前をつければ、登録完了、指令をお与え下さいと跪く
そんな自分より背丈のある、青年といえる歳の人型に勢いに負けて名付けたものの、純粋な疑問を口にした

「君は、誰?」
「命名***。マスターはあなた様。製造年月日2813.9.1。仕様年齢21、新型F90WZO、万能型アンドロイドです。基本性能として対人対物戦闘、性欲処理、感情表現などがありますが、多くの場合感情表現はオフにして使用されます。マスターは個体1に対し一名。ご不要になりましたら名前の登録削除を行い御手で主電源をお切りいただくことになっております。そうすれば、プログラムに従い自爆いたします。その際主回路は復元不可能になりますので機密保持は完璧です。ご質問をどうぞ。」

ぺらぺらぺらと喋られる話は意味がわからず、つまりなんなの?と更に首を傾げれば
人型は機会人形、人造人間の類ですとにこりと笑う
自然とできるえくぼや目尻の柔らかさは本物のようで、機械人形だとは思えない

「どうして、僕がますたぁとやらなの?」
「発注主の容姿認証、声帯認証をえた結果、あなた様が発注主だと認識しております。ところで、今は2813.2.25で間違いないですか?」
「ごめん、もっとわかりやすく・・・」

はて?と首を傾げた人型は一瞬で屋根の上にあがると、広がる風景に腕を組みおもむろに頷いた
そしてマスター!と降りると、今は元亀あたりでしょうかと電気信号の走る目を向ける
それらの動きは到底目で追えるものではなく、周りは人型の雰囲気も相まって手出しができない

「そ、うだけど、」
「時代ヲ室町時代ニ設定シマシタ。」

ピーっという機械音にびくりと体が強ばるが、人型はにこやかに笑う
まるで、それが義務づけられているかのように

「私は特別発注された、ただ一人に仕えるために作られた絡繰り人形です。ですが作成途中に注文主が不慮の事故により他界。その時点で私はほぼ完成されていたので、自爆以外に法によりスプラッタ・・・失礼。廃棄処分ができないようになっていました。そこで、注文主死亡により誰の命令も受け付けない絡繰り人形を過去、注文主が生きていた時に送り使ってもらうという対処方法が編み出されました。そして、私は転送装置にいれられ、注文主が生きている時代に送られた、はずなんです。」
「・・・っ、う、うん、」
「ですが、貴方様は注文主ではない。困りました・・・まず他者が一致することのないはずの網膜認証までクリア・・・クリアとは一致ということです。クリアしてしまい登録まですんでしまいました。」
「みたい、だね、」
「ですので、私のマスターはマスターだけに。・・・仕方ありません。」

跪いて人工物には思えない温かな手が、緊張ですっかり冷え切った伊作の手をとった
ほんわか緊張を解すような温かな手を思わず凝視すれば、人型の健康的な唇が苦笑を漏らす

「登録削除をして、主電源をお切りください。私を知らないマスターは私を既に持て余しているご様子。私はマスターの不利益にならぬ為に作られたアンドロイドですから、どうぞ、廃棄ください。」
「いってること、半分くらいしかわからない。」

わかりやすく変換しますと口を開く人型に首を横にふり、ちょっと考えさせてよと伊作は笑った

「簡単に、廃棄とかできないよ。だって、本当に生きてるみたいなんだ。」
「・・・マスター、」
「とりあえず、よろしく・・・ね、***。」

黙って頭を垂れた人型は、やはり只の人間にしか見えなかった