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「ニナちゃん、いつもありがとう。」
「いいえ、帰り気をつけてくださいね。」
「うん、気をつける。じゃあ、またね。」

がさっと紙袋を持ち直して走り出せば、すぐに路地に入る
もう日も暮れようとしていて早く帰りたいのだ、多少のリスクを冒してでも暗くなる前にどうしても帰りたい

「次の角を、ひーだりっ、え、」

たん。と角を曲がったあと、広がる景色に固まる。ざぁざあと木々が揺れる、見たことのない自然に
ひくりと口の端がひきつり、周りを見回すも見慣れぬ景色
隔離された中で生まれ育った自分にとって、外は外というだけで恐怖の対象なのだ

「ど、どーしよ、え、帰り道、わかんな、」

緑が視界いっぱいに広げられぐるぐると回る。同系色に弱い自分の目を自覚し、一度閉じて深呼吸すると、紙袋を抱えて中を確認
セレブレと名の付けられた生命線である薬がダウナー(抑制剤)5つとアッパー(促進剤)3つ
いつも通り飲めばひと月か、ふた月か
ダウナーが効き難い体質なのか仕方ないとして、二つで一つのこの薬。どちらかがきれたらおしまいで、飲まないわけにはいかない
最小限に薬を抑えればみ月はもつはずなのだが、そうすると食事がとれないほど身動きがつかなくなるはずだ

「即効性が、・・・ダメだ、ダウナーとアッパーが一本、金が底つくまで買っとくべきだった。」

せめて街に近くあれとポケットに不格好だが薬のボトルをつめ、歩き出した

日が沈みかければ木の上で休み、日が完全に上がってから漸く動き出す
舗装が一切施されていない道なき道は歩きにくく、山を越えればまた山に。雨が降れば1日動けず、曇りでも動けず
薬不足でふらふらなのもあわせれば、もう疲労どころの騒ぎではない

「おれが、悪いわけじゃないんだけどな、・・・あ?」

チャラチャラとタグが鳴るのをおさえて服の中へ突っ込み、緑や茶に混じる赤黒へと近づいた

「・・・人、か。」

死んでるなら身ぐるみ剥ぐか。としゃがんだものの、微かにする呼吸音に首を傾げ、生きてるのかと少し残念がると立ち上がる
もちろん、放っておくのだ。ノーマル(健常者)に優しくする気分ではないのだから

「た、」
「え?」
「・・・す、け、」
「ええっ、」

ガッと足首をつかまれ身をすくめつついやいやいやとひきつり嫌だよと拒否を示すも、礼はすると見上げられじゃあともう一度しゃがんだ

「じゃあさ、栄養あるご飯頂戴。」
「・・・?」
「腹ぺこなの。ね、そしたら助けてあげる。」

こくりと頷いたのを確認し薬をいつも通りにガリガリと飲み込むと、ノーマルを担ぎ上げる
どっちに行けばいい?と問えば、ノーマルは指で指し示しそれに向かって走った

「薬ケチらずにちゃんと飲めばよか、いや、それは結果か。」

日が落ちきってよく身体を障害物にぶつけながらも、漸くついた屋敷の門を叩けば
中から出てきた人に従いサインをすると案内された部屋を蹴破った

「なっ、」
「おしても引いても開かないからしょうがない。はい、お届けもの。」

部屋の中で目を見開いて驚く人の前でノーマルを転がせば、気絶していたノーマルが呻きながら目を開き驚く人をみて笑った

「いさっくん、ただいま・・・」
「え、こへい、た、え!?一体何事ですか小松田さん!」
「へ?さ、さぁ・・・」
「約束守ってくれれば何でもいい。」

ぎゃあぎゃあと騒がしい室内にい。と口を横にのばして耳を塞いだまま、また気絶したノーマルに今日は無理そうだなと息を吐いた