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『さぶろー!!』
『だれ、え?・・・あ、あ!!らい、ぞう・・・!?』
『?らいぞう、ともだち?あ!』


最初に手を離したのは、僕じゃないからな



「・・・起きる時間だ。」

むくりと起きた***は、隣に寝ている斉藤を起こすとカーテンを開ける
差し込む日差しは斉藤を身じろがせ、うっすらと目を開けさせることに成功した

「ハムエッグトーストで異論は?」
「ないよー・・・」

上半身裸のまま部屋から出て、冷蔵庫を開けているその姿に足を止める

「お、おはよう、」
「おはよう。」

だがそれもすぐに、視線は逸らされ会話はなくなった
けれど、諦めずに声をかける人物に眉間の皺が増える

「あのさ、よければ朝食作るけど、」
「いらない。」
「なら、一緒に食べない?」
「・・・」

無言。後に歩き出した***は、片割れの部屋の扉を思い切り気と蹴飛ばした
内側に歪んだように見えた扉はすぐに開けられ、中から掛け出てきた片割れに詰め寄る

「ご、ごめ」
「僕に弟は一人だけだ。」
「ごめんなさ」
「君も。遊びなら僕を巻き込まないでくれるかな。」

くるりと振り返り、片割れに扮していた鉢屋に無表情のまま告げ
***は自室の扉を足蹴にして開いた

「朝食どっかで食べましょう。」
「えー・・・僕眠い、」
「なら僕先に行くので」
「置いてくの!?僕置いてかれたら他人の家にぽつんなんだけど!」
「ざまぁ。」

性格悪いなぁもう・・・と苦笑しつつ、斉藤は着替え忘れたと騒ぐ
それにシャワー浴びに行くよと***は風呂場に消え、斉藤は当たり前のようにそれを追った

「下着も忘れちゃった。」
「新品ないから。」
「流石に人のは・・・」
「本当はあるけど。」
「あるなら貸してください。」

ピアスひっかかった!千切ろうか?と仲良く喋る二人の声は浴室に消え、辛うじて聞き取れる大きさで水かけないで!と騒ぐ斉藤の声だけが残る
ぽつり。不破の目から涙が零れ、震える唇がぴくりと動いた

「雷蔵?」
「っ、さぶ、ろ・・・っ、***は、僕の兄さんなのにっ、」

兄さんをとらないでと泣く不破に鉢屋は眉間に皺を寄せ、竹谷と尾浜はオロオロ、久々知はぽかんと浴室方面を見つめる
すぐにシャワーを終えて出てきた二人は髪を乾かしたり歯を磨いたりと身嗜みを整え、リビングへ戻ってきた

「あれ、不破くん泣いて」
「泣くのなら自室で泣いてくれないかな。」
「ちょっと***、」

すたすたすたと淀まず歩く***はいいながら部屋に消えていく
***兄さんっ、と涙声の不破が縋るように部屋に駆け出し、服を着ている***の腕をつかんだ

「・・・やめてほしいんだ、そういうの。」

不破の手を引き剥がすようにどかすと、タカ丸さん服。と斉藤が着ても違和感のない服をとってきて投げ渡す
慌ててそれをキャッチした斉藤は戸惑いながら***を見るも、***は早く学校行きましょうと首を傾げた

「・・・どうしちゃっの?」
「なにが?」
「僕の知る***は、努力家で素直でちょっと意地悪で・・・思いやりのある人だったはずだよ。」
「これが、僕と不破の関係性です。ねえ不破?」

今にも声を上げて泣き出しそうな不破は血が滲むほど唇を噛みしめると、無理矢理歪な笑顔を作りうん。と頷く

「僕の頭がおかしいから、仕方ないんだ。タカ丸さん、兄さん、朝から迷惑をかけてごめんなさい。」

早く服着てくださいといつものように言う***と自嘲を漏らす不破に、なんでこんな辛そうなんだろうと斉藤は自分が苦しくなってしまった