1 

「ド。」

空気が揺れて、ヴァイオリンの綺麗な音が鳴る
続けて、***が音を口にする度に連動して音が鳴り響いた

「次、チャイム。っ!」

リンと鳴った杖先から目を離し、***は後ろを振り返る
そして意識は飛んで、目を開ければ見知らぬ場所にいた

ここはどこだろうと、ついさっきまでいた街並みをいっさい排除した自然に首を傾げ
空へと、当たり前のように舞い上がった

「単純な音魔法で遊んでただけなんだけどなぁ・・・」

街中で転送魔法の練習をする人はいないだろうし、転送魔法を使ってもいない
ならば誰かが故意に自分に対して魔法を使ったのか

「近頃研究となまらない程度にしか魔法使ってなかったから丁度いいかも。」

さてとと周りを見回して、ここが山だとわかった
そして、辺りに見慣れたものが何もないこともわかる

「魔法道具使われた?・・・どう帰ろうかな。」

とりあえずここら辺を回ろうかと速度を上げずに飛び、集落を見つけたのは日暮れ
光魔法を杖先に灯しながら、ふんわりと集落の中心にある井戸の真横に降り立てば
漂う死臭に鼻を覆い、井戸に半分入るような形で瀕死の状態の人に声をかける
返ってくるのは微かな呼吸音だけで、話は無理そうだ

「・・・この井戸、枯れてるじゃない。」

マグノシュタット(***の在籍する都市)ではあり得ないことだと、瀕死の人を寝転がして体の状態を診た

「風邪、によく似てる。でも毒素が溜まってるような肌色だし・・・」

これでどうだろうといくつかの臓器に魔法をかければ、みるみる回復する肌に大した病気じゃないなとほっと一安心
ミイラになりかけのようにカラカラ渇いているその人の元気になった目がギョロリと動き、唇がぶるぶると震えた

「み、みず、」
「ああ、うん。」

ぐっと井戸の中に入りっぱなしの桶を手繰り寄せようとすれば、手応えはなく、桶の中は腐葉土が沢山詰まっている
これじゃあなぁと苦笑して、***はピィピィとルフ(魔力の源)が反応して、小さな水の球がふよっと浮いた

「飲める?」

言葉が終わる前に水を食う勢いで水を飲み込んだ人に切羽詰まってるなと驚き、未だよろよろながら土下座をして感謝を述べるその人に当たり前のことをしただけだからと頭を上げさせる

「当たり、まえ?」
「そ。だって私魔導士だもの。ゴイを正しく導くために、私たちはいる。」

自信をもって胸を張れば、その人はきょとりとしながら、神子様。と***の手をつかみ拝んだ
え!?と手を引こうとした***は、神子様の意味が分からない

「みこ様って、なに?」
「神子様っ、この山里をお救い下さい・・・!」
「う、うん、よくわからないけど、」

とりあえず離してといえばまた頭を下げて申し訳ありませんと丁寧な謝罪をされ、とりあえず他の家を見て回るからと逃げ出した***は、民家に片っ端から入り可能であれば治療をしてまわる
終われば水を与え、次は畑へ向かった
ぞろぞろとゾンビのようについてくる人たちに気味の悪さを感じつつ畑にたどりついた***は杖をトン。と地面につけ呪文を呟く

しゅるると植物が育ち、実った

「やっぱり。人が耕すと種が残るのよね。」

枯れた実も蘇るし。と笑顔で畑を蘇らせる***の背後には、いつの間にか生き残っていて人たちがひれ伏していた

「・・・え、宗教団体みたい、」
「神子様!」
「神子様ありがとうございます!」

神子様神子様と感謝を口にする人たちにだから魔導士だってばと訂正するも無意味で
もうそれでいいよと、***は深いため息をはいた