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「あの、道って確かあっちじゃ」
「こっちでいいんだ。」

そうだっけと思いつつも、親友だと錯覚していた人物と同じ顔の他人に強くでれるわけはなく
***は黙って鉢屋の後ろを歩き、そして

「鉢屋くん、そっちあぶな、っ!?」

目の前から消えた。と思えば、次の瞬間には背中に衝撃が
崖から突き落とされたと状況を把握してすぐ、***は逆らえるわけもなく水面に叩きつけられる
派手な水飛沫の音に近くを巡回していた監視役の先生が反応し、***は多少水を飲み気絶した状態で救出された

「大丈夫か!?***!」
「げほっ、っ、」

意識を取り戻し水を吐き出した***はすぐに気を失い保健室へかつぎ込まれたが、意識を取り戻してすぐ抱きしめてくれたのは保健委員を押し勝ち看ていた先輩であった

「せ、んぱっ、」
「事故か故意か、どっちだ。」
「え、せんぱ」
「道を外れて足を踏み外したのか、鉢屋に突き落とされたのか、どっちだ。」
「っ・・・だっ、て、言ったら、雷蔵くんにもっと嫌われちゃうっ、」

それはもう言ったも同然だ。案の定、先輩の雰囲気はぴりりと鋭さを帯びて、***は不安げに先輩を見上げる
それに笑いながら***にじゃないと頭を撫でた

「怖かったな。」
「っ、」
「大丈夫。オレが守ってやるから。」
「強く、なりたいっ・・・!」

なんて嫌み。そう思った保健委員は少なくない
***もその先輩も、十分すぎるほどに実力があるからだ

「強くなろう。いつ兄さんが見に来てもいいように。」
「はい!」

そうした決意など知らぬ、俺のせいかもと震えながら自室の四隅で丸まっていた竹谷は、謝れば許してくれるかもと思うも動けない
***を可愛がってる先輩に殺される。よくて冷遇か
なんにしても、竹谷は必死に謝罪の言葉を探す

「も、う・・・んで、だよぉっ、」

泣き言の罰なら重すぎる。まだ下級生どまりの竹谷にとって、先輩の目は怖すぎた
結局ろくな言い訳も浮かばぬままに保健室を訪れたのは二日後で、竹谷は先客に戸を軽く開けたまま固まる
そこには、鉢屋の所属する委員会の委員長と、先輩がいた

「うちの鉢屋がすいませ」
「もっと丁寧に。」
「申し訳ありませんでしたごめんなさい頼むから隣の極悪人どうにかして下さいお願いしますから!」

ノンブレスでクレッシェンドがかかったセリフに、***の体がビクつきます。それを優しく先輩が撫でながら、怖がらせないでくださいよと土下座する頭を踏みつけた

「あだだだだだ!」
「後輩のしでかしたことは先輩が償ってくださいよ。あ、竹谷。」
「は、はい!」

急に、振り向きもしないのに気配だけで自分だと分かられたことに驚きつつ、竹谷は慌てて室内へ
職員室へ行くから***を見ててくれといわれ、慌てに戸惑いが重なった

「わ、かりま」
「行かないで・・・!」

ひしっと、着物を掴んだ***に先輩は驚きつつも、座り直してやっぱりいいやと竹谷に断りをいれ
そしてどうしてくれんだと座りっぱなしのもう一人を睨んだ

「ちゃんと叱っとくんで許して下さい。」
「僕、先輩に・・・誰にも、怒ってません。」

だから謝らないで下さいと微笑を浮かべる***に、おまえの後輩天使すぎだろと騒ぐ先輩にそういう目で見ないでもらえますー?といつもの調子に戻る先輩
三人を見ながら、竹谷はその場を一歩も動けない
見たかったいい方への表情の変化を、会ってすぐの先輩が手に入れてしまったのだから

(・・・胸が、いたい、)

黒い靄で胸が一杯になり、そういえば竹谷は何の用だったんだと聞いてくる先輩に、通りかかっただけですとあからさまな嘘をついた