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「組離れちゃったね。」
「雷蔵くんと一緒が良かったな・・・」
「仕方ないよ、こればっかりは。僕だって、***と同じ組がよかったし、部屋がよかったよ。」
「組が離れても、僕たち友達だよね?」
「当たり前じゃないか!」


信じるものは救われる・・・?

怪異と恐れられる鬼は、一体何に救われるというのか


事が起きたのは、入学から一週間ほど経ったある日


基礎体力測定にて、山奥の集落の更に奥にひっそりと暮らしていた鬼の子は
怪力といい意味で言われ重宝されていた雷蔵てすら時折怪我をさせてしまう力を制御しきれていなかった

走る速度が、上げる石の重さが、思うままに一撃ふりなさいといわれた模造刀を振り下ろした衝撃が、四方手裏剣で的の裏の木まで抉り折った事実が

「ばっ、化け物、」

誰かが言えばそれは広がる
最初はじわじわと手渡しのように広められていた事実は、次第に尾鰭と背鰭が生えて自由に泳ぎ回り
たった一週間で、鬼の子はぽつんと寂しく、訳も分からず取り残された

頼る術を知らずに放り投げられた鬼の子は、だから歓喜したのだ
組が違うというだけでとんと会えなかった唯一無二の親友の姿に

「雷蔵くん!」

こんなに会えないと知らなかったから、待ち合わせもなにも出来ずに

「雷蔵くんあのね、」

パッと雷蔵と過ごす中で身につけた自然な笑顔で手をふり駆け寄る鬼の子は一瞬、何が起きたのか理解が出来なかった

「雷蔵くん・・・?」

ぱちりと確かに目はあって、それはそらされ言葉は無視される

「雷蔵くんっ・・・」

するりと横を通り過ぎた親友の手を掴もうとして、目に飛び込んだ光景に固まった

「鉢屋くん、こんなところにいたの?先生が呼んでるよ。」

たっと小走りで、隠れるように茂みに埋もれていた誰かを引き上げ
行くよと手をひいて行ってしまう、親友・・・だったはずの子供

「・・・ずっと、親友で、」

いようって、と、茫然自失
ぽろり。ぽろぽろ。胸が痛んで苦しくて、鬼の子はうずくまり声を殺して泣きます

怪我とは別種の痛み
息をするのも辛い

「ら、いぞ・・・くん、」

涙が止まらず、顔を上げられないまま
ただただ、時間だけが過ぎていく

「・・・?どうした?」

優しい声に、鬼の子はそろりと顔を上げ
ことりと首を傾げた

「あぁ、一年か。どうした、迷子か?」
「っ、ちが、います、」
「・・・おいで。ほら、俺が面白いもんみせてやるから。」

ほらほらと抱き上げられ、吃驚した鬼の子に微笑んだ先輩は
動物は好きか?と優しく尋ねる
それにこくりと頷いた鬼の子は、先輩も動物好きですか?と返した

「大好きだ!一年、来週あたりに委員会が決まるはずなんだ。よければ生物委員会にしないか?」
「生物、委員・・・」

歩きながら楽しいぞと笑った先輩に、鬼の子は指でしめされた先見て
うりゅ・・・といつの間にか止まった涙を潤ませながら狼、と呟いた

「緑と書いてりょく。それがあいつの名前だ。」
「さ、触っても・・・?」
「もちろんだ!俺の優秀な相棒だからな。」
噛みつかれてもしらないがな。と下ろされ、鬼の子はすぐに駆け出す
檻を真ん中に、狼もとことこと近づいてくれた

「はじめまして。」

手を伸ばせば、躊躇いもなくすり寄る
それにほう。と先輩は関心し、かっこいいだろ?と鬼の子の隣に座った

「はい!僕、生物委員に入ります!」