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「やだー・・・でもさ、校長って禿率高くない?」
「うちは副校長と揃って禿率が高かった。ああはなりたくないな。」
「***のお父さん白髪タイプだし大丈夫じゃない?」

くっだらない話を当たり前のようにしながら
当たり前のように彼女と手をつなぎ、デートして、キスしてヤる
記念日は祝ってそれなりのプレゼントを贈って贈られて、時々真剣な話

当たり前にありきたりな幸せを過ごしていた僕は、今日も彼女とショッピングを楽しんでいた

「あ!あれ可愛い!」
「よし、え・・・?」

ドン。と背中に誰かが当たってきて、彼女の顔だとか、振り向いた時に見えた女の顔だとか
全てに嫌な予感がして、当たられた腰を探るように触る

ヌチャ、という音に、手が震えた

「な、」

引き抜かれて表れたのは包丁
普通に普通の家庭用包丁

真っ赤に染まって、なんか黒かったりするのがついてる包丁
痛みは、ない。全然、ない

「っげほ、ハ、」

せり上がってくるのは胃の内容物かと思えば、正体は血
口をおさえた手もお気に入りの服も靴もみんな真っ赤にするほどの、僕の血

逃げないとと思うのに、ふわりと抱きつかれて引きつる

「私のものにならないのなら、コロシテアゲル。」

うっそりと笑った女は、振り上げた包丁を僕の胸めがけて振り下ろした

力が入らず倒れた僕に、漸く彼女が悲鳴を上げる
僕を刺した女は、黒い滑らかな癖っ毛の間から瞳孔の開ききった目で僕を見ながらクスクスと笑っていた

その不気味な笑い声を聞きながら、僕は20年にも満たない短い生に別れを告げた


「・・・ここ、どこだ?」


はずだった


鬱蒼と茂る木々
ざわざわと騒がしい風
歩き辛い凸凹地面

「あ、れ?」

腰に傷がない
服が知らない服だ
目線が低くて、声はまあ同じ

「・・・なにが起きた?」

遠くから自分を呼ぶ声がする
振り向けば、ガサガサと黒が掛けてきていた

「見つけたぞ!」


心底安堵したような様子に戸惑いながら、僕は痛む体で抵抗できず
あれよあれよという間に、僕は見知らぬ場所から見知らぬ場所にうつされた