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「お父様、アレが欲しいの。」
「あれか?」
「はい。」

幼子の願いは、生誕祝いの席で叶えられました




八左ヱ門は小汚い子供でした
ゴミを漁り雑草を含み根をしゃぶり
自分より弱者から奪い取り自分より強者には媚びた

生きたいわけではなかったが死にたくはなかった
少なくとも、惨めで侘びしく空きっ腹を抱えながら死にたくはなかったのでしょう

親が口減らしに捨てたから
上に健康な兄姉がいたから
自分を捨てるのを誰も咎めなかったから
色んな理由をつけて、八左ヱ門はその理由を憎んで恨んで生きている


疑い欺き憎んで恨む

「ちょっといいかな?」

大人の力で掴まれても、いつもの八左ヱ門なら抵抗して逃れられたでしょう
けれど、掴んできた大人は上質の着物を着た男の指示で動いているようだ
つまり逆らえば痛い目で済まないという事

権力には逆らってはいけない。これは、一度死にかけるほど鞭で打たれたので学んだ


体を洗われ着物を新ためられ
ふっかふかの真っ白な厚い布団が敷かれた部屋に通された
微かに良い香りがしていて、一通りの押入や小棚を開けて驚く

「な、んだ・・・?」

上質な着物
見たことのない白い長い布
手触りの良い紙にノリの効いた筆、質の良い墨

「・・・、」

着物を手に取り、屋敷を抜け出す
質屋に卸せば、今までにない大金を手にできた

何がなんだかわからないが、自分を屋敷にあげたあいつらがいけないんだと
八左ヱ門には罪悪感の欠片もありません

こうして、理由も理屈もわからなければ知ろうともしないうちに
八左ヱ門は安定した盗み先を得たのでした