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「カイザーアレクも、ラインハルト陛下のように御聡明で在らせられる。カイザーリンが御聡明で在らせられるのだから、お二方の御子が凡夫なわけはないのだが。」
「至極当然ながら、あの若さで覇気を纏い指揮をとるあのお姿はやはりカイザーを思い起こさせるな。さて、世間話はここまでだ。俺には後世を育てる義務がある。」
「一応、帝国の陸戦隊隊長なんですが。」
「ははは!わかっている。空戦も陸戦も、参謀面においても優秀な卿にこれ以上を求めるのは酷というものだ。」

重たくぶつかり合うのは模擬などではない、正真正銘のトマホーク(斧)。しかし、それに見合う装備はされていない。
互いに軍服での挑みは、まさに死闘。幾度ものぶつかり合いの末、ミッターマイヤーのトマホークは宙を舞い地面に突き刺さった。

「うむ。やはり卿には負けるな。」
「遠くにラインハルト陛下もロイエンタール元帥もオーベルシュタイン元帥もヴァルハラに逝かれ、元帥は実戦から離れる他なかったのですから、致し方ないことかと。」
「若い世代もこうして育ってきていることだしな。若い芽の養分を奪い取る如き我々は早々に退場するべきだな。」

何をおっしゃいますか。と言おうとして、酸素を求める口はなにもつかまず。驚愕に染まるミッターマイヤーののばされた手は、触れているはずなのに掴むこと叶わず。
空をきった自身の手は透けていて、未知の恐怖に足が竦んだ。が、実際は竦んだのではなく、透けて地に足着かなかっただけだが。

「どこへ行く!」

いいえ、どこにも行きません元帥。私は、マインカイザーのもとで武勲を重ね、マインカイザーの御為この身を粉にして尽くす所存に御座います!

深淵に引きずられているのではないかと思うほどに強力な力により、自身の終わりを確認し。また、足掻いた。
まだ死ぬわけにはいかないのだと。ミッターマイヤー元帥の様に後世を育て、託し、見届けてからではないと。決して、死ぬわけにはいかない。

「必ず!必ず戻り参らせる!!」





気を失っていたのか、気付けば全身を包む浮遊感。それなりの速度での落下は、幾らも寿命を延ばさなかったとみえる。
かなりの上空からの落下だ。もしや生身で大気圏への進入の果たしたのかと、身震いした。
眼下に広がるは記憶も薄れるほど前に歴史資料で拝んだ、まだ宇宙の一惑星且つ唯一の活動圏内であった地球の地理に酷似していたが。けれどそれが何百何千年前だったか、歴史自体にあまり主きをおく人生ではなかったために思い出せはしない。
次第に近づくヴァルハラへの門をくぐる準備をするわけにはいかないが、空中でなんの装置もなしにあらがう術を持っているわけもなく。目を瞑り、カイザーを思い起こし謝罪した。

「マインカイザー・・・私は死して以降も、御身に忠誠を誓います。」

落下には相応しからぬ水音。そして痛みのなさに、立てば足の着く浅い水場で未だ水に足を浸したままに周りを見回す。
かつて地球という惑星には多様な人種が存在したと言われているが、歴史を重ねる毎に血は混じり、今やこうものっぺりとした顔が淘汰されずによく残っていたものだと。
貧相と言っては、遺伝上の問題なので申し訳ないのだか。

「天女・・・ではないな。飛天様、ようこそおいでくださいました。」

天女も飛天も、自身のことを指しているなど誰が思おうか。天女は美貌を喩え、飛天は美形を喩えるのなら。自分は武神に喩えられたいし、自分の容姿がそれ程優れていると思えない。
もっとも、カイザーが血に相応しく彫刻と見紛う美しさを要するためそう思うだけであり、実際に容姿端麗なその姿は人を振り向かせるに値する。

「私をこのような辺境惑星に呼び寄せた方法などわからん。理解の必要もない。私を帝都へ戻せ。」

言葉は通じるはずだが、意味が通じないようだ。最初に話しかけてきた人物に向けていた目線をずらし隣をみても、また隣をみてもどうやら結果は同じらしい。
意味が通じないということはつまり、この状況を打破するに至るための時間が幾らか必要になる。それが例え僅かでも、許容できるはずはないのだ。

「・・・学園長先生に、会っていただきたい。」
「必要はない。私が卿等の害にならぬうちに、私を帝都へ戻す。これが最善最良。そして唯一話にだすべき事柄だ。」
「ここは、貴方のいた時代ではありません。」
「それがどうした。私がこちらへ来たわけではなく、卿等が私を引きずり込んだのだ。」

動揺しないことに不思議と言われるも、カイザーの御身や帝国の権威に障る以外に動揺するべき事由など存在しない。自身のことなら尚のこと、値しない。
水場からあがり、装備を調べる。軍服に銃の所持。予備エネルギーに応急処置の数点の確認。全て軍服の上からだが、確かにそこにある安心だ。

「よくぞ参られた飛天様。」

瞬間立ち込めた煙幕に、銃を向けるという行
動は間違いではないはずだ。