記憶にはないけど、うんと小さいときから「寂しい」って思ってた。
でもその度に兄様が助けてくれて、僕はいつしか同じ顔した優秀な兄様に恋情を抱いていたんだ・・・

気持ち悪いだろ?
同じ顔した同じ体格の同じ声を持つ男である兄様を、愛したなんて。


異常だとわかったのは五つになったとき。


兄様は家族に必要とされていて、祖父が直々に知識を惜しみなく与えていたから兄様は一族内でも右にでる者はいないほどに長けていた・・・次期当主は確実なほどに。
僕は兄様が学んだ全てを兄から学び、少しでも兄様の役に立てればと思っていたんだ。

元服の儀が執り行われる数日前・・・僕は聞いてしまったんだ。父は婿養子だから、家督は兄様に継がせる。そうなれば弟である僕は邪魔になるから、殺すって。

薬師の名家らしいこの家は外部から狙われることが多いから、僕は兄様の影武者として生かされてた。でも、僕があまりにドジだから逆に足手まといになる。


兄様が元服の儀で幼名を捨てるその日、僕は殺されるんだ。


怖かった。
死ぬのが怖い。
兄様と離れるのは嫌だ。

兄様がいなければよかったのか?

違う。
兄様がいなければ僕は僕じゃなかった。
会いたい。今すぐ兄様に。
でも、会うのが怖いんだ。


兄様と離れたくない。そばにいれなきゃいやだ。どうせ殺されるなら、兄様の手で、そっとこの首を絞めてほしい。最期まで、見つめ合っていたい。
兄様の目に、僕を焼き移したい。

結局、いつも兄様と遊ぶ部屋で隠れるように泣いていたら
明日まで帰ってこないはずの兄様が帰ってきてくれた。

「大切な弟が泣いてる気がしてさ。」

そう言って抱き締めてくれた。
暖かかった。


「だから笑っていてね、    。」
「兄様・・・?」

次の日、兄様は早朝山にはいり


行方知れずとなった。


薬学を覚えるのに必死で忘れてしまった幼名を、呼んでくれたのは兄様だけだった。
幼名は忘れたけど、未だに響きだけは僕の頭に残っていた。


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