生まれた時からの記憶が全部あるって、信じてもらえますか?

僕は薬師の名家の長男としてこの世に生を受けました。そして、僕には弟がいます。
同じ顔をした双子の弟は、僕の一番の宝物です。同じ顔なのに、なぜか愛嬌があってちょっとおっちょこちょいな可愛い大切な弟。時折見せてくれる笑顔が大好きで、堪らなく愛おしい
そんな弟が、両親や祖父母からあんな冷たい目を向けられる理由がわからない。僕よりうんと優しくて、僕よりうんと可愛い弟は、今日も僕の腕の中で声を殺し涙を流すんだ。

同じ背丈なのに、弟は小さいんだ。小さく縮こまり、必死に存在感を消して身を潜める

「僕はね、この世の誰よりも   が大好きなんだよ。」
「ぐすっ・・・う、ん・・・僕も、兄様が大好きだよっ!」
「同じ顔した双子なのに、   だけ愛されないなんておかしいんだ。」

涙を拭い、ふわふわな髪に触れ、そっと額に口づける。キョトンとした顔は、どうしてこうも可愛いんだろう?

「だからね、僕は僕に与えられる愛情を、全て   に与えられるように。   が幸せになれるよう。   が笑っていてくれれば、僕はどんなに辛くたって頑張れるから。だから笑っていてね、    。」
「兄様・・・?」

これは、元服を行う三日前のこと。僕は翌朝、新しい薬の調合用に薬草がほしいのだと当主である祖父に許しを得て山へ入った

決して行っては行けないとされた、霧の濃い「神隠し」が起こるという山奥へ


僕がいなくなれば弟が愛されるはずなんだ
だから、僕は三途の川で石でも積みながら弟を見守るよ


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