入学金、授業料、寮費、諸々消耗品の費用。全部併せて六年間、その額は安くない。親が望んだか本人が望んだか選択肢なくかわからないが、それでも六年間、時間は無限じゃない。

それを蔑ろにしてまで客人が大切かと問う。答えは、是

ならなぜ忍術学園に留まるのかと問う。答えは、客人がそれを望むから

では客人を客ではなく職員か生徒かに区分し嫌ならば外へでるよう今後を問う。答え、客人に向かいなんと無慈悲な


「客人の生活の費用は君たち保護者の金銭から、忍務の報酬から。客人を大切に思わぬ者からみれば溝に銭を投げ込んでいるかのようだ。」

騒ぎ立てる周りを、僕は手で制して睨みつける。僕の実力を知る皆は、僕より速いことはなく下手に手を出せないのがわかりやすい

「客人。あなたへ与えた期間は過ぎた。明日、この忍術学園を出ていただく。」
「大川貴様!」
「父より!私はこの件を任された。今君たちの前にいる僕は同級生の大川ではなく学園長の息子だ。異見は聞かない。」

上下関係に厳しい現代社会。学園長の名を出せば皆が黙ることを知っていたが、権力を笠に着て何かをするのが好きではない僕にこれをさせた客人は唯一黙らない。それどころか僕を指差し、叫んだ

「学園長に息子なんて原作にはいないの!あなたがイレギュラーね!?やめてよ!ここは私のハーレムなの!!」

あいつを殺して!だから伊作が私に跪かないのよ!騒ぐ客人に狼狽える周り。小平太あなたが殺して!命令を下す客人に七松が僕に向かい苦無を取り出す

「早く!!」

勝つ自信はある。勝たなければいけない。伊作にまた危害が加わるのなら、大丈夫といわれようがもう見過ごせない
だから、七松を殺すつもりで刀を抜いた。けれど、周りの誰もが驚き当然僕も驚きそして七松自身も驚き隠せず、七松の苦無を握らぬ方の手が易々と僕の背後から僕の胸部を貫き心の臓をつかみながら赤黒く濡れる手が震えながら僕の眼下へとさらけ出される

「げほっ、」

ぼたぼたと血が溢れ、後ろで七松が違うわたしじゃないとぶつぶつと呟いていた。わかってるよ、それくらい。これは君の実力から大きく外れている
いくら君が暴君だろうと、鍛錬不足のその指が僕の筋組織や骨をくり貫くように手中におさめるだけの力があるとは思えないから

ならば、客人が人智を越えたなにかだったのか。僕にはもう調べる術はなさそうだ

ふらつく身体と歪む視界のまま手裏剣をうてば、客人に当たりはしたようで肩を庇うようにうずくまる姿が見える。そこで、僕の意識は沈んでしまった


「伊作、」


痛みを共有する僕たちだから、僕はただ、伊作が痛い思いをしてないかがひどく気掛かりでならなかった




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