相互依存

Can not live without you.

ローにとって、世界は親と自分とその他。メスを握るのも覚えたとおりに生き物を解剖(捌く)のも、何にも疑問は持っていなかった
いくらその他が喚こうが、世界が侵されるわけも崩される訳でもなかったのだから



少し力の緩んだローをぐいぐいと引っ張り玄関を開けて母親を呼ぶ響は、すぐにきた母親にただいまと笑う。それに微笑みを返し遅かったわねと響の頭から足先までを触って怪我がないかみようとした母親は、服についた血や腕をみて悲鳴を上げて響を抱き上げた
響はごめんなさーいと謝ると、自分を抱えてリビングへ走ろうとする母親の服をつかみ手当てしてくれたの!とローを指さす
ローはメスをケースにいれたまま握っていたその手を後ろに隠し、きょとりと見てくる響を成長させたような顔に唾を飲み込んだ

「あら、そうなの?ロー君って言うのね、響の手当てありがとう。」
「あ、いえ・・・」
「ねぇねぇおかあさん!アイスちょーだいよ!」
「まずは手当てよ。」
「お礼はアイスがいいの!」
「んもう、ロー君は好きな味ある?」
「いえ・・・あの、おれ帰ります。」

帰ろうとするローを、響の母親が引きとめる。優しい微笑みを浮かべる響の母親は、初対面だからか響と瓜二つに見えて仕方ない

「お礼をさせて頂戴?さぁ、あがって。」

それだけ言うとお母さんお願いという響を下ろし、足早に去っていく母親。響はローを玄関に座らすと、あっけにとられている姿をこれ幸いと靴をひょいと脱がした
そして遠くに置くと自分の靴をその靴の横に置き、行こうとローの手をつかむ。その手は見知らぬよそ様の家にあがる緊張で汗ばむローの手よりひんやりじっとりとしていて白くなっていた

「・・・おい、」
「響早く来なさい。」
「はぁい!」

青白い顔に笑みを浮かべた響に連れられリビングへとはいったローは、吹き抜けに無垢の木でできた床や壁を見回しソファーに座らせられ傷の確認をされる響へと向く
響は母親の言うとおり傷口を洗い流し、ラップをまかれ端をテープで止められた

「湿、潤・・・療法?」
「あら、よく知っているのね。」

女の子の身体だもの、傷は残したくないの。そう言いながら新しいワンピースを響に着せた母親は、アレルギーはないかしらとローに問い、頷いたのを確認してから器に飾り付けたアイスをソファー前のテーブルに置きどうぞと微笑む
ソファーに座っていた響は少しずれて隣をぱすぱすとたたいた。おいでと、微笑む姿に自分に傷をつけた相手にする態度ではないと戸惑いながらも、そろりとずれた分だけ離れて隣に座ったローはシンプルなグラスに注がれた麦茶にありがとうございますと頭を下げた

「響とは前からのお友達なのかしら?」
「え・・・あ、いえ、」
「公園であったの!あのね、かっこいいなーって思ったの。」
「ふふ、そう、よかったわね。ごめんなさいね、響結構強引なところあるの・・・あら?そういえば名前を知らないわ。」
「あ、ローです、トラファルガー・ロー、」
「ローくん、後でご自宅まで送るわ。時間があるなら、響の相手をしてあげて?」
「・・・はい。」

といっても部屋で絵本を読むくらいねと響に向かった台詞に、響はわかってるよと笑って少ない量のアイスをそれより多めにあったローがアイスを食べ終わり麦茶を飲み干して漸く食べ終わる
器を片付けに母親が背を向け、響はローの手を引いて部屋にいまーすとリビングから出て行った

響に手を引かれて可愛らしい部屋につれてかれたローは、壁のリモコンを押して冷房をつける響に問う。なぜ声をかけたのかと、険しく眉を寄せながら部屋の入り口に立った

「・・・なぜって、理由がいるの?」
「おれに話かけて、なんのメリットがある。」
「理由がほしいってこと?」
「欲しいんじゃなくて、なきゃおかしい、だろ。」
「ないよ?ローの言い方だとロー自身にねうちっていうの?それがないみたい。」

そう不思議そうにする響はローの手を優しく握り、こつりと額をあわせて目を瞑る
間近で見ようが変わらない、寧ろより魅力的に映る響が輝いているとさえ錯覚するローは澄んだ瞳に食い入った

「大好きだから、とかどう?」
「・・・好き、」
「安心した?だめ?じゃあローがかっこいいから、とか。」
「こんな、血色悪くて目の窪んだ神経質そうな顔の、なにがかっこいいんだ。」

嫌味か。その顔を持ち笑みを絶やさないお前がなにを賛美しようが響かない。そう吐き捨て響を振り払ったローは、自分を家に招いた強引さとはかけ離れた抵抗で床に尻餅をついた姿に渋い顔をして身体ごと顔をそらす
きゃっと言って尻餅をついてからなんの反応もなかった響にそろりと目だけを向けたローの口から、は?という掠れた声が零れて落ちた

「ッ、は・・・ぅ、」

指を白くしながら胸元を鷲掴み下着が覗くのも構わず踏ん張るように足先は開いたまま、反対にくっつけた膝に額を当て歯を食いしばる響の姿。現状を認識した頭が足に指令を出し勝手に後退り、逃げようと廊下へとでる

「ばい、ば、い、ろー、ま、また、ぁそ・・・ぼ、ねっ?」

ひくひくとノドをひきつらせながら自分をみて笑った響に、こいつは頭がおかしいんだと思わざるをえない。笑っている場合ではなく、縋るように助けを求め苦痛を全身で表現しながら手を伸ばすべき事態なのだから

「っ、頭、わいてんのか、」
「だ、て、ッ・・・!ぁ゛っ!」

ギュッと目を瞑った響はベッドの隣にあるサイドテーブルに這うように向かい、サイドテーブルに乗る袋を指で弾いてふわふわの敷マットに崩れる。ローの足は意識のままに響にかけより、汗をかき顔を上気させるくせに異常に冷たい身体を起こして支えると口開けろと処方を確認して錠剤をのどの奥に突っ込み水差しから直に水を流し込んだ
加減がわからずごぽっと空気があがり口端から水が響の顔はもちろん支えるローの腕を濡らし敷マットに吸い込まれる。夜中に水を飲もうとしてよく零す響への対策が思わぬところで役にたったようだ

「悪い、平気か?」

薬を飲んだのは確認したが、目を開けない。けれど手が弱々しくもローの腕をつかみ、響の口元にはどうしたって笑みが浮かぶ

「へーき・・・ろー、びしょ濡れ、」

起き上がった響は止めるローを無視して開けっ放しのドアから見えるように水差しを両手でつかみ、まるで今サイドテーブルに置いていますとでもいうようにポーズした

「響、ドアは開けっぱなしにしないと・・・」

不自然に言葉を途切らせ響をみて固まった母親は、ドアノブから手を離し響!と急いで響に近づき抱き上げる
青ざめて響の異常を聞き出そうとする母親に響は変わらずにこりとしながら水差し倒しちゃっただけと首を傾げた

「本当に?お母さんに嘘ついてない?」
「ほんとだよ!ね、ロー。」
「驚かせてしまい、すみませんでした。」

するりと出てきた台詞にロー自身が驚き、母親が敷マットを回収してそっとドアをしめて出て行ってからぺたんと床に座り込んだ響の隣に同じように座り込む

「ごめんね、みっともないとこ見せて。」
「は?」
「さっきの、よくあるんだけど、みっともないんでしょ?だから、ごめんね。」

ぎゅっと体育座りをした響がサイドテーブルに頭をもたれ辛そうに目を瞑れば、なにバカなこと言ってんだとローのきつめの声が響の重たげな瞼をゆるりと開けさせた

「ばかじゃ、ない・・・もん、」
「みっともないだなんて、そんな構ってられるほど軽いのか、さっきのは。」
「・・・まっくらになるくらい、いたい。でもね、お父さんのお母さんたちはみんないうの、みっともないって。だから、たぶん、それがふつうなんだと思う。」
「そんな普通を気にするな。」

ぐいと響の肩を抱いたローは自分の肩にもたれてきた頭を肩を抱く手で撫でる。心地良さそうに肩で息をしながらローをみた響は、やさしいねと笑って自分とは違う理由で青白い頬へ唇を触れさせた

「っ!な、なん、」
「お昼寝しよ?」
「・・・は?」
「くま、なおるかも!」

いいでしょ?決まり!と無理矢理立った響が倒れるようにベッドへ乗ったのに引きずられベッドに手をついたローは、手をつないだままもそもそと布団を着てローを巻き込み、つないでいた手を腕ごと抱えて瞼を落とした響がより光って見える

「・・・変なやつ。」

くすぐったい心のままローは響の唇にちゅっと軽いキスをして、自分の行為に吃驚して真っ赤になりながら首をふった

「ねないの・・・?」

むにゃむにゃと言う響に釣られ、ローはいつの間にか目を瞑り眠った


2人の出会い、当時五歳であった