聖なる夜に全力逃避


積もる雪を踏み固めながら走る二人を追う複数。銃弾掠めても足を止めることのない二人は、片方真剣に片方大笑いしながら夜の闇をひたすら進んだ

「にゃはははははっ!ちょー追われてるんですけど!」
「お願いだから少し黙ってくれ!」
「にょー!かすった!今かすったよ弾がっ。」

だから黙れってと茉莉亜の腕を引っ張る尊奈門は、茉莉亜をのぼれとフェンスに押し付け後ろを振り返る
押し付けられた茉莉亜ははいはいと軽々フェンスをのぼり、追っ手にあっかんべーと舌を出した

「挑発するなーっ!」
「ほら行こう尊奈門!ホワイトクリスマスにリアル真っ赤な不審者になる。」
「なんだそれは。」

ガシャンとフェンスを乗り越え先に走る茉莉亜を追う。尊奈門早くと急かす姿に舌打ちをもらして足を動かすも、なぜか茉莉亜が逆走し尊奈門の肩をつかんで背を押した
転びかけながらも走り少しして派手な銃声に止まった尊奈門は、振り返り崩れる茉莉亜の名を叫ぶ

「何してるんだっ!!」
「散弾銃とか、卑怯だよね。」
「避けろよ!」
「避けたら尊奈門直撃じゃん?でも距離あるから瀕死で済むじゃん?荷物持ってるの尊奈門じゃん?なら私が撃たれなきゃじゃん?ほら答え。」

早く逃げなよ追うからさと立ち上がって尊奈門を蹴る茉莉亜は、フェンスを乗り越え迫る追っ手にカモンとファインティングポーズをとってみせた

「バカか!早く逃げ」
「一時間。経って来なければ忘れて。だから、それを依頼主へ。」

バカか!ともう一度叫んだ尊奈門は、早く行きなさいよとナイフを取り出す茉莉亜に唇を噛み死んだら殺すからなとセリフを吐いて走り出す
多勢に無勢の状態でも怯まずナイフをくるくると回す茉莉亜は、逃げなよ尊奈門と呟き追っ手に向かって走り出した




聖なる夜に全力逃避




荷物運びを終えた尊奈門は、今回はぐれたときにと打ち合わせしておいた場所でかれこれ三時間は待っていた
一時間経って来ないならと茉莉亜は言ったが、尊奈門にとって茉莉亜は代え難い存在である

「寒い・・・早く来いよな。」

足跡は雪に消され、尊奈門は何度目かになる頭につもる雪を払い落とす動作を行い、そしてはっと前をみて駆け出した

「茉莉亜!」
「やっぱ待ってた。あのね尊奈門、一時間経って来」
「お前がいないならいくらでも待つ。仕事を一緒にはじめるときに決めたんだ。」

なにそれと笑う茉莉亜はのどが潰れそうな咳をして血を吐き出すと、遅れてごめんねと目をそらす

「早く医者にかかるぞ。」
「はいはい。それ終わったら牛丼食べて帰ろう。」
「相変わらずやっすいな。」

牛丼のなにが不満だね?と口を尖らせる茉莉亜の頭を撫でて、尊奈門は庇ってくれてありがとうなと恥ずかしそうに呟いた


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