「あの娘だな。」
「いくぞ。」

町で買い物をしている**を狙う影。ハッと気づいた母が**さん!と走り寄ってくる男二人と驚いて振り向いた**の間に手裏剣をうつ
混乱しながらも呼び寄せた母の後ろに隠れた**は、向かってくる男二人をあっさり地に伏せさせた母の姿にぽかんと口を開けてすごいと呟いた

「・・・**さん、離れないでくださいね。」
「は、い、」

腑に落ちないを顔にだす母に頷いた**は、母が振り返るのと同時に後ろに現れた男に顔をつかまれるように口を押さえられ、首もとに苦無をあてがわれる

「っ、おか、」
「黙れ。」

ゾクッと震え上がった**に、母は倒れていたはずの男たちが立ち上がるのを感じてそちらにも目を向けなくてはならない
周りの通行人は巻き込まれたくないのか、遠巻きにみてくるだけ。当たり前だが
何者ですかと問えば、返ってくるのは腹立つ笑み。鼻で笑うように目を細めて微かに首を切った苦無にぐっと涙をこらえた**は、何をされるんだろうと恐れる

「大人しくついてくれば、これ以上傷はつかない。」

母の背後にいる鈍色の凶器を持つ男二人をみた後に自分を捕らえる男へと目を移した**は小さく頷くと、母が驚くのにもごもごと謝り男に引かれてその場から消えた

母はすぐさま忍術学園へ走り伝蔵に事を伝え利吉を探し出すと、話を聞いた利吉がすぐにでも犯人探しをしようとするのをとめ、なぜですか!と声をあらげる姿に落ち着きなさいと咎める

「**さんを餌に、貴方を呼ぶ気だと考えます。しっかりと順序をたててからでなくては、助けることなど叶いませんよ。」
「こうしてる間にも**さんがどれほど不安がっているか!」
「貴方が傷つけばっ、**さんは今後、殻に閉じこもったままです!」
「っ、・・・わ、かりました。」

母に説得された利吉は、どこの者でしたかと似顔絵を描くために筆と紙を取り出した

一方連れ浚われた**は、牢の中で体育座りで丸まっていた
協力なんてしない。彼を拒絶して助ける理由をなくしてやる。そう噛みついた**は生意気だと殴られ口の中を切っている。それが、精一杯の虚勢だったのだ

「飯だ。」
「いらない。」

二人組が互いを見て頷くと、一人が牢へと入り**は怯える。びくついて息を飲むと、のびてきた手にいやっ!と手を前に差し出した
その手は掴まれ口をこじ開けられると、固くて口中の水分を奪うだけの炊いた雑穀を押し込まれ、噎せながらそれを吹き出す

「チッ。」
「手荒に扱うな。」
「気にいらねぇなぁ・・・非力なくせして頭に逆らうたぁなぁ。」

おら食えよ!そう脅されひっとひきつり相手をみた**は、痛めつけたいなら方法があるだろと入ってきたもう一人にきょろりと目を向けた

「女を従わせるなら、犯して頭ぱーにしてしまえばいいだけだ。」
「俺が汚れる。」

びっと広げられた着物に暴れる**の腹を一発、胃液をぼたぼたと吐き出してうずくまる姿にいいね。と唇を舐めた相方に使えなくすんなよと一人が牢から出て行く
わかってるよ。と返してから頭が最優先だと楽しそうに鎖骨すぐ下に噛みついた瞬間、**の口元に諦めの笑みが浮かんだ


「大丈夫、前と何も変わらないから・・・耐えられる。」


利吉が忍び込んだのは数日後。伝蔵と母が陽動諸々を引き受けてくれたので、思いのほかあっさりとそれは叶う
下調べで**が牢に置かれていることは分かっていたが、実際に牢へと続く道に足を踏み入れれば独特の臭いに口宛をぐっとおさえた

「**さん。」
「・・・、あ、」

虚ろに顔をあげる**に牢の鍵を壊して開けた利吉は、脂でべたついた髪を撫で埃で汚れた手をつかむ
爪の割れた手は小刻みに震えていて、**を抱き上げて牢からでた利吉は、音もなく背後に現れた男にしまったと振り返った

「漸くお目にかかれたよ、山田利吉。」
「・・・忍者隊、頭、か。人攫いまでして私の気をひいて、何が目的だ。」
「君のせいで戦が潰れてね、城主様が拗ねてしまったんだ。だから、次がないよう釘を刺しておこうかと。」

釘?と訝しげに相手をみた利吉は、いや最初は殺すつもりだったんだけどねと笑う姿に眉をひそめる

「摘まみ食いをしたみたいで、手を出すなとは言っておいたんだが。」
「・・・何?」
「ああ大丈夫大丈夫、しっかり絞めといたからね。まあこれに懲りたら、うちの邪魔をし」

ギッと相手を射殺すように睨みつけた利吉は、ツーっと汗を垂らしてやばいなと生娘でもあるまいしと笑う相手に、頭の中で糸の切れる音を聞いた
ぼんやりとしたままの**をおろしたなと目視した刹那に自分に向かってきた手裏剣に腕や胸を刺され、頭はぱっとその場から消える
それを追った利吉を**は見送り、別に平気なんだけどと痛む腹をゆっくりと撫でた

頭を追った利吉は、目に入った忍装束の急所に片っ端から手裏剣を打ち込む。前に立ち塞がるなら容赦なく首を裂き、向かってくる凶器の何もかもを弾き落とし、例え傷がついても怯むことはない

「利吉!」
「離せっ!!」

騒ぎに気づいた伝蔵に止められても止まらない。利吉の力が強すぎ、伝蔵では抑えられない
ギンッ!と刃がぶつかり合い、利吉が押し勝つ。ピリッと首の薄皮を切られた頭は首を抑えながら地雷を踏んだかと舌打ちを漏らした

「まずい奴に手を出したみたいだね。」

頭に血が上りすっと顔色を無くした利吉は、真顔のまま頭が息切れをするほどの攻めをみせる。止めるに止められない伝蔵は**を連れる母に顔を向け**の姿に忍術学園時の姿を重ねて息を飲んだ
分かっていたつもりだが、目の前にそれを見せられると罪悪感というものが顔を出す

「利吉さん、私、大丈夫ですから。」

そして、にこりと笑った**に目を見開く。なぜ笑うんだと、伝蔵ののどまででかかった

「なにが大丈夫だっ!!またそうならなければならないほど傷つきながら!」

ガッと頭の首スレスレに苦無を突き立てた利吉は、怒鳴りながら苦無をそのまま引こうとして手が刃を握り阻まれる
そう簡単には殺されないようだが、このままでは時間の問題だ

「私、平気ですから。だから、早く・・・帰りたい、」

消えていく言葉に手を止めた利吉ははっと**を振り返り、微笑んだままの姿に頭の側頭部を殴ると**に駆け寄る
ふらふらと壁に寄りかかった頭は痛み分けかと笑って集まってくる部下を手で制し、もう二度と会わないことを祈るよと場に似つかわしくない笑みを浮かべる**に向いて手を振った

「・・・帰ろう。」
「はい、利吉さん。」

さっと**を抱きあげて城から飛び出した利吉は、一人で歩けますよと微笑む姿に守れなかったと血が滲むほど唇を噛む
**はまだ好きでいてくれますかと利吉の胸に顔を埋め、当たり前だろうという返しに安堵のため息を漏らした