「折角愛らしい方をお嫁にもらっての新婚なのに、仕事中毒なのは変わらずね。」
「何かを一途に熱心に務める方は、素敵だと思います。」
「**さんがそう甘いから、息子が甘えるのよ?寂しくはないの?」

えっと、と頬をかきながら困ったように笑った**は、ちらと客間から息子と同じ部屋へとなった自室をみて大変ですと困ったまま下を向く
元々利吉は忍びという仕事柄私物を持たない傾向にあったせいか、二人の部屋には**の私物が大半をしめていた。着物二、三着を除いたその全てが、利吉からの贈り物

「そんなに不安なら、そばにいてあげればいいものを。」
「え?」
「ふふっ、何でもありませんわ。」

ぽそりと呟かれた言葉に首を傾げる**にあわせて、真っ赤な髪紐についているビーズがチャラチャラと微かに鳴る
贈り物を手を変え頭をひねり身につけてはいるものの、その品数にそれ自体がストレス源となっているのは**の秘密だ
完全好意の贈り物を拒めるほどは、まだ辛くない。ただ、もう着物も櫛もいらないと断言できる

「ただいま戻りました。」
「お帰りなさい利吉さん。」
「お帰りなさいませ。」

ふわっと笑みを浮かべた**は作りかけの紐飾りをおいて利吉に近づくと、お土産。と渡された包みに口を結んだ
助けを求めるように母を振り返った**にため息をついて、見た瞬間**さんにこそとと嬉しそうに話す利吉を呼ぶ

「なんでしょうか、母上。」
「外へあまり出ない**さんには些か物が多いのではなくて?」
「**さんに似合うなと思うと、なぜか気づいたらお勘定後ということが殆どで。」

自分を律せず情けないと苦笑する利吉に浮かない顔を隠してありがとうございますと笑った**は、今度は手ぶらで構いませんからと利吉を見上げた

「もしかして、趣味に合わな」
「いえ、お母様が仰ってくださったように、少しばかりお土産が多くて。暫くは遠慮したいなと。」
「私はあまり帰ってこれないから、その分です。」

イマイチ通じないなと包みを握って、**はいりません。と母も驚くようなはっきりとした声で首を振る
え?と同じように驚いた利吉は、これで最後ですと包みをあけて櫛を手にした

「今後、お土産は一切受け取りません。」
「やっぱり趣味じゃなか」
「物ばかり増えていって、落ち着かないんです。察してください。」

しょぼんと**の手にある櫛を見つめた利吉は、わかった、そうするよと寂しそうに笑って別の話題をと紐飾りに視線を移す
それを利吉の手をつかむという動作で止めた**は、嬉しいは嬉しいんですと恥ずかしそうに俯いた

「でも、利吉さん不在の空いた空間に物だけ積まれても代わりにはならないし、もっと寂しくなるし、会いたくなる・・・から、だから、お土産を探す余裕があるなら、お店の人と話す時間かあるなら、その分早く帰ってきてください。」
「・・・**さん、」

**さんの方が一枚上手ねと、感激のあまり**を強く抱きしめる利吉をみた母は、私も会いたいわと夫を思い浮かべた