何かいいたげな生徒たちに牽制を込めて**さんに接すれば、**さんは照れ笑いをいくつも浮かべて私を見上げる
こういう言い方はよくないが、素材がいいのだろう。どんな表情も仕上がっている**さんの照れは本気で胸がぎゅっとするんだ
正直口吸い止まりで先に進めてない(**さんは無自覚だが、完全に身体が拒否してる)のに、小松田さんに名前で呼ばせたり生徒たちの視線だったりで苛つく場面もあったが、全部帳消しになる程**さんが愛しい

「これはどうかな。」
「利吉さんに似合うと思います。」
「いや、私は使わないよ。」

では誰が・・・?と困惑した顔の**さんは物欲がないのか、櫛や巾着などの小物を眺めて楽しんでいる
それが悪いわけではないが、母上のお古ばかりでは本人はよくても私が嫌だ

「よし、買おう。」
「何をですか?」
「着物一式に小物。」
「・・・女装するんですか?」
「だから、私は使わないよ。」

女装は必要に応じてするが、それは言う必要がないので言わない。なんだかあっさり受け入れられてしまう気はするが、こう、言いたくない

「**さんに、です。」
「私に?でも、私奥様からいただきました。」
「私の好みを身につけてほしいだけですから。」
「このみを、はいわかりました。」

神妙に頷く**さんは、考えるのをやめて従えばいいと判断するとこうなる。反抗的なのが好きなわけではないが、従順すぎても対応が難しい
結局母上が合流するまでになんとか**さんに贈り物をするのが叶いはしたが、母上と内緒話をする**さんの満面の笑みが気になる
私をちらちら気にしながら何を話しているんだ、口が読めないし周りのざわざわでうまく声が消されてわからない

「こちらが今夜お世話になる宿屋です。**さんは息子と同じ部屋でよろしいですか?」
「はい、大丈夫です。」

忍耐の一晩か。ある意味拷問だな、これは
**さんは私を優しい優しいと評価するが、私はあまり優しくはないのだが

「私はあの人と食事の約束がありますから、お二人は自由にされてね。」
「私のせいで、何か問題でも・・・」
「ふふっ、久方ぶりに会えたものですから、食事をというだけよ。」

よかったとほっと息を吐いた**さんは、案内された部屋で二人きりになっても緊張した様子はなく、久しぶりに食べる他人の料理においしいですねとにこにこ笑う
風呂のある宿屋らしく山を下ってどろどろだった身体を清めて揃って部屋に戻れば、きちんと布団が二組寄り添うように並んで敷かれていた

「離しましょうか。」
「私寝相ひどくないので大丈夫ですよ?」
「・・・**さん、私は聖人君子ではないんだが。」

ことりと首を傾げた**さんは数秒考えるとあっ、と思いいたり恥ずかしそうに布団の端をつかむ
離しましょうと引こうとした手をそっとつかんで止めれば、あわあわと焦りながら頭が足らずすみませんと布団に向かって数度頭を下げた
それに小さく笑い、好いてますよと**さんの額に口付ける。全ての動作が一時停止をして私を見上げてぷるぷると震える**さんは、思考停止状態なのか、か細い声で私を呼んだ

「り、利吉さ、」
「ん?」
「っ、わ、私もっ、」

好きですと尻すぼみになるセリフに完全にやられた私は、胸をおさえて床に手をつく
なんだこの生き物はと身を震わせれば、**さんがあの?と不安げに私の背に触れた

「いや、問題ない。すまない、いきなり挙動不審な態度をとって。」
「いえ、私も変なことを言ってすみません。あの・・・利吉さん。」

よいしょと布団を離した私の寝間着をつかみ、**さんは名前、と目線を彷徨わせながら呟く

「名前?」
「昼間、**って呼ぶことにしたのかなって思ったのですが、**さんのまま、なんでしょうか。」

わざとか、わざとなのかそうなのか。私の理性を試しているのか
生娘でいられないのも納得だ、こんな無防備で守ってくれる存在がいないのなら手を出し放題じゃないか

「りきちさ・・・?」
「ん?ああ、すまない。考え事を少しね。」

怖い顔でもしていたのか、不安そうに私をみる**さんの頭を撫でてさあ寝ましょうと灯りを消した
おやすみなさいと頭を下げた**さんにおやすみと布団に入れば、ずっ、と布団が寄る音がして肩にぺとりと指先が触れる

「知らない場所で少し不安で・・・すぐに離しますから、いいですか?」
「・・・ああ、構わないよ。」

こっちに向きながら目を瞑った**さんの手を握れば、だから今日はずっと手を離さなかったのかと私も目を瞑った