父上も母上ももちろん私も忍びという少し特殊な職についているせいか、寒さや暑さに対する耐性が一般の人よりある
温められたご飯とできたてのおかずとを胃にいれれば、それだけでもう十分なくらい温かくなるのだが
くしゅんと身を震わせた**さんを見れば、寒そうに囲炉裏に物凄く近づいていた

「寒いのかい?」
「いえ!この上着、とても暖かいです。」

鼻頭を赤くさせながら何を言っているのかとため息をついて、母上がなにか厚手のを持っていなかったかと洗った食器を全部棚に戻して横座にあがる

「あ、のっ、私、半纏あります、から、」

母上の部屋に入ろうとした私を呼び止めたセリフにならなぜそれを着ないんだと問えば、ぎゅっと上着を握ってボソボソと落ち着くからと呟いた

「落ち着く?」
「・・・落ち着くにおいが、します、」

それは多分私の体しゅ、いや、これでも職業柄無臭を目指しているんだが
何て答えようかと一瞬悩んだ隙に、はっと顔をあげた**さんが臭いってことじゃなくてと声を上擦らせる
それにふっと笑いを漏らした私は、亀のように上着に埋まる**さんに気にしてないよと返した

「利吉さんは、優しい方ですね。」
「普通だよ。」
「・・・そうですか、」

しょぼんと俯いてもっと早く会いたかったとさっきよりもうんと小さく発されたセリフは聞き流した方がいいだろうと、そうだ。とわざと明るく声を出す

「雪だるまでも作ろうか。」
「雪だるま・・・」

ぱっと目が輝いたのは一瞬で、すぐに病み上がりの方が何を仰いますかと勢いよく首を横に振った

「別に病気だったわけじゃないし、折角の雪なんだから少しくらい遊んでも罰は当たらないよ。」
「ですが、」
「草鞋を履いて半纏を着て、外へ出よう。」
「・・・はい。」

いいのだろうかと不安そうに草履を手にした**さんに草鞋はこっちと手渡して、紐が多い?とぽつり
私が履くのをみて同じように草鞋を履いた**さんは、あっと膝で部屋まで歩いて中から半纏と襟巻きを引っ張り出した

「お借りしました。」

脱いで手渡された上着は微かに**さんの香りがして、自分がなぜだか変態に思えて意識をそらす
もこっとした半纏を着た**さんは襟巻きを上着を着た私の首にまいて寒くないですか?と愛らしく首を傾げた

「借りていいのかい?」
「はい。」
「ではお借りするよ。」

揃って外に出れば**さんは両手一杯に雪を掬ってぎゅっと握ると、ころんとした雪玉を乗せたまままた雪を掬う
ギュッギュッと音がして固まる雪玉ですぐに手は真っ赤になったが、雪の上を転がしてまた握ってと子どものようにはしゃいで雪玉を大きくしていった
私はもう一つ雪玉をと邪魔にならないように新雪の積もる地面を進む

「もう一つ、あっ、」
「どうぞ。」
「ありがとうございます!」

よいしょと二つを重ねて木の枝を刺した**さんは、石を目と鼻にしてから胴体にも三つ埋めた

「それは?」
「ボタンです。」

シャツ着てるんですとガリガリと襟のようなのを描いて、口に穴あきの枯れ葉を押し付ける
できたと鼻頭や頬を赤くさせて笑う姿にこちらまで笑みが浮かび、ずっと雪遊びしてみたかったのと手のひらサイズの雪玉を何個も何個も作る姿は思わず抱き締めたくなる姿だ

「えいっ。」

雪だるまに雪玉を当ててはほろっと崩れる雪玉に懐かしそうに目を細める。そして作った雪玉を粗方投げ終えると、楽しかったと立ち上がってのびをした

「あまり外遊びをしてこなかったのか?」
「仲間に入れてもらえなくて、一人で遊ぶのも寂しいし、図書室で本を読むことが多かったので。」
「私もこんな山奥で過ごしてきたからね、友と呼べる人はいないよ。」
「・・・一緒ですね。」

嫌な一緒だけどねと苦笑すると、**さんもですよねと苦笑してから寒さに身震いを
氷かと思うほど冷たい手を握って冷え切ってるねと雪を落とし続ける空を見上げれば、反対に下を向いた**さんは弱々しくも握り返してくれる
驚きを表にださないよう努めて**さんを見つめれば、寒さとは違う赤みのさした耳にたまらず名前を呼んだ

「・・・ごめんなさ、!」

ぱっと払うように手が離される。身体ごと逃げるように離れた手を強く掴み、ハッと顔をあげた**さんに慈しみを持って柔らかい声を意図してだす

「はじめてですね、そうやって握り返してくれたのは。」
「すみませ」
「正直すごく嬉しいんです。」

なんで?そう顔にだしながら首を傾げるのと同じように首を傾げ、好きだからですよと想いを乗せて声を紡いだ

「す、き・・・?」
「貴方を守りたい。温かさを感じて幸せだなと思える家庭を一緒に築いていきたい。」
「かてい、まも、る?」

拙くも一所懸命言葉を飲み込んでいく**さんは、理解したのか真っ青になって手をふりほどくと一目散に家へと逃げていく
呆気にとられて後を追えば、バタバタと部屋へ逃げ込む姿に早すぎたかとゆっくり戸を叩いた