口で言わなきゃわからない! *


「***っ!!」

訓練場に響き渡る怒声に舌打ちを漏らしたのを、次の一撃に身構えていた男は確かに聞いた。けれど一秒とおかず爪先が喉仏にめり込めばたまらず息を詰め悶絶するしかなくなる。血を吐けば汚ぇと小さく吐き捨てられた
次いで振り上げられた拳が頭を目掛けて振り下ろされるのに目をきつく瞑ったはいいが、衝撃は一向に来ず男は恐る恐る目を開け光景にほっと息を吐き出す。助かった。心の底から零れ落ちた言葉に同意する者はこの場にはいくらでもいた。なにせ、今は集団訓練中なのだから。しかしそれも誰か一人でも意識があればの話だが

「やりすぎだ。止めなさい…いい子だから。」
「…発言の許可をいただけますか。」
「許可する。」

おざなりだが一応敬礼をした***は拳をほどいてからモモンガを見上げため息混じりの言葉を吐き出した。まるで聞き分けのない子どもに向けるかのような声色にぴくりとモモンガの眉が動く。上官にする態度からかけ離れているからだけではなく、この注意を再三どころの話ではないくらいに行ってきたからだ

「ただの、マンツーの模擬戦闘です。中将が執務室から駆けつける程度とは思えません。教官のストップが入らない内は許容範囲内かと存じます。」
「周りを一度見回してみるんだ。」
「死屍累々ですね。」

見なくても分かりますよ。だってやった本人だから。さらっと言ってのけた***は鳴り響いた鐘に帽子を脱ぎスカーフを外し、時間なので失礼しまーすと気だるげな声を落としながらさっさと身を翻してしまう
残業はしないスタンスの***は就業時間が過ぎれば制服を脱ぎ捨てるタイプだ。例えばそれが、いかなる場面であろうとも。理解ができない。そう、部下から報告を聞き執務室から走ってきたモモンガは救護班を要請し、その背を見えなくなるまで見つめた

プル、プル、

二回だけ震えた小電伝虫をポケットの上から押さえながら


***にとってモモンガは監督官でありモモンガにとって***は爆弾だ。保護者的役割を担うのは任務であり、紆余曲折の末、有り体に言ってしまえば現在#name#とモモンガはセフレである。二人の間に情があるかと問われれば疑問が浮かぶほど二人の間に甘さはない。楽しくもない。けれどモモンガは一般市民に被害がいくとわかっていては***との関係を切れない。ジレンマだ
そう、モモンガは思い込んでいる

「別にいーのに。」
「それを鵜呑みにした過ちがある。」
「彼女たちは死に支配されていて、おれは死体を抱きたかった。利害の一致利害の一致。」
「自殺を止めるのが、普通の人間だ。」
「自殺企図でなく希死念慮。この会話何度目?飽きた。」

スリーピーススーツに伊達感を添えた***は今まさに家を出るところで、モモンガは必死に仕事を片付けた甲斐があったと内心ホッとする
モモンガの手にある紙袋は***が好むホットドッグで、それを見た***は早く帰ってこなくてもなーと呟きながらも家に引っ込んだ
モモンガはつまらなさそうにキッチンへ向かった***を追い、丁寧に淹れたお茶に隠すでもなく錠剤を溶かすのをじっと見つめた

「使おうと思ってたからさー。」
「…準備をする。食べていなさい。」
「はーい。」

くぁ、と欠伸をしながら渡された紙袋からホットドッグを取り出しかぶりつく***を後目に、モモンガは足取り重く自室へ入っていった。これから行われる、苦痛に準ずる行為の準備をするために


「はいどーぞ。」

シャワーもしっかり終えてきたモモンガは差し出されたお茶を一気に飲み干し、ぐんにゃりと歪む視界にイスを巻き込み盛大に床へ倒れ込む。痛みは感じない。もっといえば指先の感覚もない。ここまで即効性のある薬ははじめてで、自分のような男に効くのだから一般市民が飲んでいたらどうなっていたのか?想像しただけで自分の選択が間違っていないことを知る
***はそんなモモンガを自室のベッドへ運び、相変わらず重いと文句を垂れてからバスローブを剥いだ

きゅぽんと空いた蓋のおかげで塞き止められていた粘度高めなジェルがとろりと臀部に伝う。びく、と震えたのはその冷たさのせいだ。くるくるとジェルが広げられても振り返ることのできないある種の恐怖を与えられたまま、モモンガはただただ体をピクつかせた
一体なんの薬を飲ませられたのか?聞こうにも舌はだらりと垂れて、うつ伏せのせいか唇の隙間から微かに外気を舐めるだけで動かない
筋肉たっぷりの引き締まった臀部の奥、一般的な男ならば一生初物であるはずの、いや、初物という単語すら自分のそれに使わないであろうアナルに***の指先が触れた。もう何度目になるだろう?いつまでたっても慣れないものだ
けれど薬のせいか弛緩した体は大した愛撫もなく二本三本と指を飲み込み、出口を入口に変質させていく***に主導権をとられてしまう。そうしたらもう、ただ声を出すまいと枕に顔を埋めることしかできない

どのくらいそうされていたのだろう。薬の効果が薄れはじめた頃違和感なく自分の肉体かのように錯覚していた***の指が抜かれ、ひんやり冷たくつるりとした異物がぴたりと入口に触れた。つぷりと入ったそれが何かわからないまま、モモンガはいやに重たいそれに意識を向ける

「今のは一体な、っ、」

上体を起こしたモモンガは、けれどすぐに崩れ唇を噛んだ。柔らかくするだけされた直腸内で蠢くヒダが異物を出そうと収縮し、異物が意識とは裏腹に肥大した前立腺に触れたからだ
慌てて掻き出そうとするも***に硬度をもつペニスを弾かれぎゅっと体を固めた。硬直に異物がごりっと前立腺を抉り、暗転しそうなほどの快感が体の隅々にまで行き渡る

はじまった。モモンガは自身のペニスを両の手で握りながら震え上がった

「ひっ!?」

間一髪射精を耐えたはいいがせりあがった睾丸は熱を放出するべく震え、ペニスはより敏感になったところだ。その先っぽをくるりと撫でた***はひきつり自分を睨むモモンガからフイと顔を反らす
している最中無口になられるのは、いつだってこわい。なぜそうなるのかわからないしどんな心持ちかも分からない。機嫌の良し悪しすら分からないモモンガには抵抗すら脳裏に過らせるわけにはいかない。面倒になればモモンガに触れて来ることは確実になくなるのだから

「あぁっ!ぁ、っ、」

くるくるカリカリ。先っぽから雁首までを指が往復し、モモンガが体を強張らせたり無意識で逃げようとする度に撫で回されやわらかくなった直腸内で異物が転がる
異物は素直で、直腸内の動きで緩やかに下がり、今は入口となった元出口から外へ出たがるが、疑似排泄をみられることは屈辱だ。けれどきゅっと力を入れればぬるりと奥へ異物が入り込みモモンガを苛む。意識が自然と異物へ向く。異物の、背中を粟立たせるその動きに息が詰まった

「く、ぅ、」

***はまだ反応していない。ということは最後までする気がないということだ。つまり、***の気が済むまでモモンガは一人裸で辱しめられるということ
半ば絶望していたところにぐにゅりと指が二本異物に蹂躙される中へ入り、異物をずるりと取り出した。あっけにとられるモモンガはぴとりとまた宛がわれた異物に腰を引かせ、出した意味があるのかという問いを飲み込んだ

「ん…、」

おや?と、内心首をかしげる。形状に変化はないが少し小さい気がする。お陰でヒダの動きに従順で、入口付近で出たいと止まっていた
モモンガだって出してやりたいが出すところは見られたくない。いくらちっぽけであろうとも尊厳はあるはずだ。けれどその葛藤が異物をきゅうと柔らかく締め付けることとなったらしい。さわさわと掠れているだけの刺激が大半だった異物に変化はない。変化したのは中だ

「ふぁっ…!?あ、…!、?、?、!?」

ぞくぞくとした感覚が駆け巡った。一瞬で何も考えられなくなった。疑問符が山のように浮かび、解消されず具体的な言葉も浮かばない。モモンガは無意識にペニスをよりきつく握りしめていたが、そのせいで溢れる声が隠せない

「あ、ああっ、あ、あっ、ひっ、ィ、あっ、」

必死に口を閉じようとすればするほど力が入り、異物が優しく中を擦る。粘度の高い唾液が零れ、自分が中で快感を得て嬌声をあげているのに気づかないわけにはいかない

「ひぁあっ、あ、ふっ…ぁ、」

薬のせいなのだろうか。頭の中がとろりとして気持ちいいしか浮かばない。だが決定的な何かがないのだ。それが理性を残す原因だ。モモンガは今、快楽に呑まれるには足りない刺激のせいで自分の声をあげる姿を想像できてしまっている。羞恥心なんていうものは対***の時にはないに越したことはないのだからいっそ完膚なきまでに快感で叩き潰してほしいと頭の隅で考えてしまう。実際はそんなことになれば困るのだが

「***っ、あっ、ああッ、ひっ!はっ、〜〜っ!!」

ぐちゅりと、取り出された異物より更に小さな異物が中へ埋め込まれる。いつの間にかモモンガは必死になってそれに集中していて、些細な刺激に悦んでいた
熱の溜まった下半身が訴えるまま握っていたペニスをゆるゆると扱きだしたモモンガは、けれどイケる刹那にまた握り締めて諌めてしまう。***がまだ何も言わないからだ。許可がなければ、モモンガは精液の一滴たりとも溢せはしない

「う゛う゛ぁっ、」
「イイコですね。」

あれは最高でしょ。と、冗談っぽく、けれど恨めしげに言われた台詞は上司のものだ。あれは酷いよねェ。苦笑しながら、けれど***を睨み付けながら言われた台詞も、何も言わないまでも***からあからさまに距離をとる姿も見てきた

獲物をこうやってしこたま攻め立てる。そうして堕としては別の獲物を見つけにいく。他の誰かに***が触れる。自分には二度と、と、そう考えて、何を考えているのかとモモンガは自分を叱咤した
これは一般市民を守るため。仕方のないことなんだ。と、自分を納得させるために自分を諌める。それを客観視する自分が十分頑張っただろと囁く。ああ、楽しくない。我慢前提の快楽など、自分以外に果たして誰が耐えられるのか。自分以外に耐えられるわけがない。自分が一番、***を監督する立場に適任だと、また思考がモモンガ自身も不可解な方向へ曲がった

「よそ見はダメですよ。」
「ひぎゅ…ッ!!あ゛、あ゛〜…!」

罰を与えるように異物をそのままに差し込まれた指。何本かも分からないほど緩くなったそこで唯一主張する性感帯の塊を押し潰されモモンガの意識が一瞬途切れた
ガチガチと歯が鳴り、体中が解放を訴え痙攣し、息が止まる。そんな状態に追い討ちをかけるようにぐりぐりと埋めるように前立腺を押され続けたモモンガは喉を晒し必死に酸素を招くべく口をぱかりと開けたが、開けるだけで据えはしない

「息してくださーい。」
「ッ!!〜〜ッ、か、は、ひゅっ、」

ぺちぺちと頭を叩かれ前立腺が抉られる。長い時間硬直と痙攣を繰り返したせいか、異物が奥へ奥へと向かったらしい。体から力が抜けた隙をつき、異物がよろしくない場所に引っ掛かったようだ。衝撃に白目を向いたモモンガを、***が冷めた目で見下ろしている

「あ、っ、が、あ゛…!!ぃ゛、!」

溺れているような錯覚にもがいたモモンガはすがるような気持ちで***の反応のないただの泌尿器を掴んだ。そこに重ねられた手は余計なことをするなとでもいうようにモモンガの手を払い、奥に引っ掛かる異物を取るためだろう腕を皺がのびきるのも構わず蠢く中へ進めていく
過敏になった腸壁を問答無用で擦られ、引っ掛かった異物を無理矢理引き抜かれ、声になるはずもない叫びを上げたモモンガは異物ごと腕が抜かるのにあわせて完全に意識を手放した

変色したペニスから白濁した液体を垂れ流しながら


「あれ、もしもーし。気絶したー…?」

肩をつかんで揺すり、完全に力の抜けている様子に首をかしげる。そして至極残念とばかりに眉を垂れさせた***は汗でべったりと額に張り付く髪を避け、生気の抜けたモモンガの顔に困ったように頬を掻いた。まるで献立に悩む主婦のような普通の顔は、多分誰も見たことのない***の素顔だろう

「…うーん……難しい…。」

「いやだ」も「やめろ」も言われないから続けていいだろう。けれど、良くもないのだろう。そうな風に初体験からそう勘違いしたままの***はモモンガを清めてからベッドへ寝かせ、あー疲れたと深いため息を吐き出した

「次こそ気持ちよくできればいーなー……。」

そんな、見当違いな台詞を吐きながら



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