興味の先


話には聞いていた。一人、放蕩息子がいると
海賊の自由とは異なる、海軍の気質に近い息子が。白ひげの見習い時代の、その船の買い出し係だったらしい。その頃から放蕩者で、船長が仕方なく買い出し係に任命していたというのが不思議だとその放蕩息子を知る白ひげの息子たちは言うが
数日前に正式に白ひげ海賊団の一員になったエースは、その放蕩息子に会うのを密かに楽しみにしていた

そして今、欄干に座りながら釣りをしていたエースは真横に着地したらしい男に、それが噂の放蕩息子であると確信に似た気配を感じていた

「ハジメマシテ。末っ子くん。」
「・・・はじめまして、えっと、」
「ああ、***、です。」
「***、さ、ん。」

初見でのミスは名乗らなかったこと。初見での最良は敬称を着けたこと。エースはこの時、幸いにも***のある種興味から外れた存在になれたのだ

「メラメラの実、だ?」
「は、はい。***さんは、何か悪魔の実でも、食べてますか?その、今、いきなり現れたから。」
「食べてはいない。白ひげは教えてくれなかったかい?」
「えっと・・・はい、自分で聞いてみろ、と。」
「なら仕方がない。」

腕を掴まれたエースは、ぐんと空高く引き上げられた体に言葉を無くし自分を掴む***の腕を掴み返す
驚いているような、青ざめているような顔に***は緩やかに首を傾げて掬いとるように上から下へ、下から上へ動かした

「歓迎、する。よ。」

噴火のような水流。それが花火のように打ち上げられる。そしてそれは、様々な氷の結晶を象りモビーディック号へと降り注ぐ

「よろしく・・・火拳の、エース。」

その目に浮かぶ拒絶に、エースはただ、黙って頷くしかなかった




興味の先




「科学、か?」
「ジェルマとは、また、違う。これ…は、魔法。」
「魔法・・・」
「そう。魔法。一番隊隊長殿。帰還した報告書の受理を願いたい。」

とん。と甲板へ降り立った***は、帰ってきたのかと頭をかきながら近づいてくるマルコに振り返り気だるげに首をかしげる
マルコは相変わらずだと笑って、羊皮紙の巻物を投げ渡してくる***に一歩分間をあけて立ち止まった

「おかえり***。またウェイバーの上で立ちながら書いたのかよい。」
「ええ、まあ。効率的かと。」

ゆら、ゆら、と頭が揺れる。眠いのか、片目が完全に閉じている。だがふらついた体を咄嗟に支えようとしたエースはマルコにそっと制され手を引っ込めた。サァっと横切った風は、触れるなという***の明確な意思表示だ

「エース、ちゃんと挨拶したのかよい。」
「えっ、お、おう・・・」
「テンガロンハット。」

それはもしかしなくとも自分のことだろうか。エースはぱちりと目を開けたマルコと目元を擦る***を交互に見て、何がそう驚くようなことなのかと不安を過らせる

「へェ、珍しいねい・・・***が一発で覚えるなんて。」

別にと、***は調理場へ向かって背を向けて、補助に入ると船内へ入っていった

「ああ。いつも悪いねい。」
「白ひげの命令ならば。」

単調な声。温度の低い体。エースは咄嗟に***を追いその手を掴む。緩やかな動作で振り返った***に、ただ俺も手伝うとしか言えないエースはその台詞に返された笑みの貴重さを知らない



(78/79)
[back book next]