君と僕の関係性 *


「ひっ、う、うあ、やだ、いやじゃァっ、妾はっ、妾はただ」
「そーいわないでさ、ちゃぁんと罰、受けましょうよ。」
「ひいぃっ・・・!」

壁際に追い詰められた女は派手で重そうな衣を翻せもせず、一太刀で首をはねられた
血飛沫に口当ての中でにんまりと笑った***はザクザクと死体に刀を突き刺しては抜き突き刺しては抜き、腹の中をかき混ぜて喉を鳴らす
背後に音もなく立った八左ヱ門はため息をつき、近づいた

「・・・?」
「おわっ、あぶね・・・俺だよ俺。」
「・・・、ああ、うん、ごめんね。」

射程内に踏み入れた瞬間首筋に触れた刃に、八左ヱ門は驚きも怒りもせずににかりと笑う。場に不釣り合いな溌剌とした笑みは***に味方だと認識させるに足る顔らしい
***は刀を納めると女に興味がなくなったのか、羽織を翻し部屋から出ていく
八左ヱ門は近くの行灯を倒し、何食わぬ顔で***の後を追った

「羨ましいよ。」
「何が?」
「うん?いや、何でもねぇよ。」

待っていてくれていたらしい***は部屋に灯る赤に爛々とした目を向け、バタバタと駆け付けた人だかりに機会だと惜しそうに舌打ちを漏らす

「どっから出るんだ?」
「正門から堂々と。」

ばさりと反転した羽織と外された口当てのせいで晒される姿は少し幼さの残る、あどけのない姿。行こうと手を引かれた八左ヱ門は来たときの従者の姿となり、本当に正門から堂々と退却することと相成った

「侵入も退却も簡単すぎ!」

つまんないと文句を垂れながら木々を渡る***は標的の趣味にあわせてしていた童子の格好を剥ぎ、もう一つはと八左ヱ門に手を伸ばす
その手に投げ渡したのは名簿だ。被害者たちの名簿
中にはまだ幼児というような歳の子まで記載されている。胸くそ悪くなる名簿だ

「もう少しいたぶればよかった。その方が、変態趣味のアバズレにはお似合いだよ。」
「今回はえらく苛ついてるな。何でだ?」
「んー?・・・まあ、ね。」
「なんだよ、教えないつもりか?」
「うーん・・・まあ、うん。そのうち。・・・目、こわいよ。」

じっと見つめ合うこと数秒。にっと笑った八左ヱ門は悪い悪いと***の肩を叩いた




君と僕の関係性




「おはよう***。」
「ふあぁ、・・・おはよう、八左ヱ門。」
「ほら顔拭いて、櫛いれっからじっとしてろよ。」
「んー・・・」
「あっこら揺れんなって!」

眠いとふらつく頭を押さえつけた八左ヱ門は濡れた手拭いで顔を拭いて***がさっぱりするのを待って、ようやく髪を結うことが叶う
高い位置で髪を結わかれた***はありがとうと笑い、着せ変えられて八左ヱ門に手を握られた

「ほら朝練行くぞ。」
「ん。あ、鶯・・・八左ヱ門、とって。」
「ったく、しょーがねーな。」

手裏剣ですぐさま鶯を仕留めた八左ヱ門はそれを***に差し出し、***は笑顔で羽根をむしりだす

「いただきます。」

鶯を丸呑みにしてご馳走さまと笑った***は、そのまま血ごと全てを胃におさめた。骨すらパキパキと砕いて綺麗に

「あーあーあー・・・羽根だらけになるんだからこう、体から離してやるとかねぇの?」
「またの機会にする。」
「そういって考慮されたことがないんだよなぁ・・・まあいいや。ほら払うから手、さげろ。」
「うん。お願い。」

仕方ねぇな。苦笑しながら裝束を払う八左ヱ門は自分に全て任せてくれる***に気分をよくする。形容しがたい関係は、あくまで八左ヱ門からの一方通行である
***には少なくとも、八左ヱ門でなければならない理由はないのだから

「ほら早く朝練行くぞ。」
「うん。」




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