すれちがう *


カーテンの隙間から、ビタビタと雨粒が窓を叩くのが見える。光が反射して、斑にシーツを彩った

「やっ・・・て、しまった・・・?」

うつ伏せ気味に寝ている隣人に見覚えはあるが、ベッドに招いた覚えはない。けれどベッドにもまた、見覚えがない
自分には大きすぎるベッドに、白と茶色基調の部屋の中。明らかにそういうホテルであろう、ガラス張りの浴室が部屋から見える

「うそ・・・だろ、な、んで・・・よりによって上司なんだ・・・」

信じられない。何年も隠して隠して隠してひた隠しにして、それで手に入れた右腕的ポジションが、それが一晩の過ちで崩れた
何度骨を折っても肉を削がれても挫けず任務をこなし鍛練を重ね文官の能力も磨いた。努力して努力して信用を得て信頼されるまでになったのに

「んっ・・・」
「ひっ、」

咄嗟にでた悲鳴に口を塞ぎ、そっとベッドから抜け出た。寝返りをうった隣人はまだ寝息をたてている
皺だらけの服を着て手櫛で髪を整えながら靴を履いた。そのまま、ホテル代にとお札を何枚かテーブルへ置き、真っ青のまま部屋から飛び出した

悪い夢だと、悪くないはずの酒癖のせいで記憶がなくただただ怠いだけの現実。穿つような雨の中、失態から目を背けたくてひたすらに打たれて走り続ける。淡く抱いていた恋心もふとした仕草に沸き上がる下心も、全部流れ出てしまえと全力で

その日、出勤したのは定時ギリギリだった

相変わらずの雨にぐしょ濡れの靴も靴下も脱ぎ替えを忘れた事実にただただ茫然とし、裸足で執務室にある予備の衣装ロッカーを思い浮かべられた頃に始業のチャイムが鳴り響く
慌ただしく執務室へ飛び込んだのは珍しく礼を忘れたらしくない行動だったが、それは隣人がまさか自分より早くきてはいないだろうという希望からの無意識に他ならない

「あ・・・?あー・・・***?おはよ。」
「っ、は、はいっ、おはようございますクザン大将!」

まさか出勤しているなんてと、痛まない尻に受けた側は隣人であろうと想像していた自分の頭は回復早いな、とか慣れてるのかな、ではなく単純に体格差も相まって小さすぎたからダメージがなかったのだろうという残念かつ悲しい結論を導きだしたようだった
アイマスクを半分だけ浮かして寝ぼけ眼を向けてくる隣人かつ上司であるクザンに、咄嗟に出たのは頓珍漢な発言だ。これには、言った直後心の中で頭を抱える始末だ

「本日はお日柄もよく絶好の討伐日和ですね!」
「・・・どしゃ降りなんだけど、外。」
「・・・はい。」
「まだ眠ィ・・・」
「あ、はい。書類整理は任せてください!全部片付ける勢いで処理します!どうぞごゆっくりお休みください!」
「ははっ、何よ今日はめちゃくちゃ優しいね。」

いつもは仕事をっつーのに。なんて、笑われる。それが妙に恥ずかしくて、自分の顔が熱されたかのように熱くなり全身の毛穴から汗が吹き出たかのような錯覚に見舞われた

「あらら・・・茹で蛸みてェになっちまって。ま、優しいうちにサボらせてもらうわ。」
「・・・サボりを公言しないでください。」
「なんか朝から疲れてんだ、許してよ。」
「っ、は、はい、すみません・・・」
「謝んなよ。別に、本気で嫌なら・・・おれ、これでも大将よ?」

海軍大将が抵抗せずやられるか?男に抱かれるのをよしとするか?力で負けると思うのか?普段ならわかりそうな意味も今はわからず、ひたすらに青ざめ頭を下げるしかない
ぐしょ濡れの靴下と靴を持ったまま俯いてしまえば、足元に膝まずいた巨体に喉奥から悲鳴が漏れた

「あらら、びしょ濡れ。」
「っあ、た、たいしょっ、!?」

ひょいと持ち上げられた片足にデスクによろめき、口に含まれ吸われ、指の間を割って股を這う舌に足が小刻みに跳ねる

「やっ、ま、クザン大将っ、クザン、たい、あ、れ・・・?」
「んー?」
「いい・・・におい?」

足を引けばついてくる。そして漂ってきたニオイに、股ぐらで熱を帯始めた愚息が***の思考を低下させた
霞がかったような、靄に視界を奪われるような、不思議な感覚。ただただ、ニオイにそうあるべきだというように反応していく体。デスクに転がされ、キスを贈られ顔を出した本能に声がうまくでない

「・・・れ、なん、か・・・」
「いいのよ、嗅いで。」
「あ、あ・・・う、くざん、たい・・・?くざん、」
「腹ん中に溜まったままなんだけど。早く掻き出してよ・・・***ので。」

ぼんやりと笑った***は、体が求めるままクザンに手をのばした




すれちがう




「た、いしょ・・・、らんか、じぶん・・・、あへ、くち、まはらな、」

ああやっと効いたんだ。クザンは緩みそうになる唇を引き締め、ぐらぐらと頭を揺らす部下に心配そうに声をかける
大丈夫か?近くで休憩するか?なんて、頷いたのかも定かではない状態の部下をホテルへ連れ込み、酔い醒ましだと更に薬を追加したクザンは部下の皮を剥いででてきた一人の男にしっかりと準備した穴が疼いた

「おれが誰か、わかる?」
「・・・?くざん、たいしょ、」
「当たり。で、ここはどこだ?」
「・・・・・・へや?」
「そ。」

ほらおいで。手をひいたクザンはシュッと自分に香水をふり、目付きの変わった部下にとうとう口元を緩ませる
部下、***はクザンを皺一つないベッドへ押し倒し、ネクタイを緩めながら熱っぽく見下ろしてくる。ぞくりと、背が粟立った

「たべられたいんだ・・・?」
「そーなの。」
「おとこどーしで。」
「準備はしてきたし。」
「へ、ん、た、い。」
「その目・・・っ、たまんね、なァ、はやくめちゃくちゃにしてよ。」

ぺろりと舌舐めずりをした***は、クザンの服をはだけさせながらキスを落とす
クザンは一度だけでよかったはずなのにと深く貫かれる度に決心を揺らがせ、吐き出された気持ちいいの言葉に正義の味方にあるまじく***を薬で依存させてしまえばなんてほの暗い決意をしてしまった

「***、口あけて・・・もっと、とぼっか。」
「くざんたいしょ、んむっ、」
「ほら、このニオイ興奮してきたでしょ。」
「っ、あ、あっ、たいしょっ、たい、くざんっ、た、」

香水がより強く残る首筋に顔を埋めさせたクザンは激しくなった律動に自分の腹へとぷとぷと吐精し、幸せそうに***へしがみつく
間違いなく今愛されているのは自分だと、顔全体を緩ませた

「あっ、あ、きもちっ、***っ、もっと奥!んあ、ッ!!だ、しながらっ、抉るのすきっ、」
「っ・・・ふ、くざん・・・い、しょ、すき、すき・・・もっと、しぼりださせて・・・ずっと、こうしてたい、から。」

ああ、なんて・・・幸せ・・・

たとえそれが、薬の見せた儚い夢であろうとも



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