仮初めの *


卑猥な水音に、むしゃぶりつくような下品な顔。それも全てボルサリーノに快感を与えるためで、やっている当人もやられてる当人もそれがより興奮を覚えさせるようだ

「で、でるっ、口はなし、あっ!あ・・・!」

腹の底に溜まる熱は解放を求めてボルサリーノを苛む。搾りとるように吸われれば、決壊したかのように舌先で抉られていた尿道口から精を吐きだした

「ひあっ、あ、すわな、ひっ、んんっ!***っ、すう、んじゃ、ねェ・・・よォっ、」

何の躊躇いもなく飲まれた精液に涙目になりながら、アナルに侵入し前立腺をひたすら揉む***に手を伸ばす
一層強く揉みしだかれたボルサリーノは悲鳴をあげながら軋むほどに***の腕を握り、亀頭だけを舌で転がす刺激にガクガクと腰を浮かした

「や、やめっ、・・・!でちまうっ、だろォ・・・!」

ぷしっと吹き出るように漏れた潮に、***は真っ赤になりながら涙目になるボルサリーノの額に口付ける
柔らかく笑って指を抜いた***の下半身に反応はなく、終わりだよと口が動かされた

「***、は・・・い、いの、かい?」

頷いて、ボルサリーノの手を引き浴室へ連れていく***は君がよくなったのならそれでと笑うばかり
ボルサリーノはたった一回の射精と潮を噴いた程度で疲れるわけはなく、余る熱に半ば思考を奪われている。そのせいで、上手く口を読めない。そっと両頬を武骨な手で包んだボルサリーノに***は苦笑しつつあやすように汗ばむ背を叩いた

「***、」

右手に触れる傷は喉仏を丁度切るように耳を裂いてから斜めに下り、そのまま流れるように鎖骨を通って胸部に達している。それは紛れもなくボルサリーノの落ち度により刻まれた負の遺産であり、ボルサリーノが***に体を渡す理由で***がボルサリーノを憐れみ番になってくれる理由であった
他者からではなく少なくとも、両人は互いに確信に近くそう誤解している

「・・・痛いかい?」

否定するように眉が下がり、二目と見れぬ傷に似合わぬ美麗な顔が反らされた

「わっしのせい、だからねェ・・・ごめんね〜・・・聞いちまって・・・。」

何も言ってくれない***に断り、ボルサリーノは扉を開けてくれているその手を離させ自分でそっと扉を閉める。いつから沸いていたのか、浴槽に張られた薬湯から立ち上る湯気に知らずに涙が溢れた
反対に、扉に寄りかかった***は首を深く裂いた痛みとボルサリーノの叫びを思いだし唇を噛みながら伏く。空気が通るだけで音など鳴らない喉に、傷を受けてから二十数年、初めて少し前に完成を告げられていた器具をつける決心をする
それはボルサリーノにとってみれば余計な、残酷な決意だった





仮初めの





「何してんだい。」
「ああ、おつるさん・・・いやねェ・・・***を、探してるんだけどォ〜どこにもいなくてね〜・・・」
「壺の中にいるわけないだろう・・・喧嘩でもしたのかい?」
「喧嘩するほど仲良くねェんで〜・・・」
「何いってんだい相も変わらず。」
「ボルサリーノくん。」

鼓膜を揺らす僅かに無機質な声。けれどそれは、もう二度と聞けないと諦めそして同時に聞かなくて済むと安堵した永遠に失われたはずのもの
ボルサリーノとつるは揃って振り向き、確かめるように呼んだ

「***・・・、?」
「あんた、喋れるようになったのかい。」
「人工声帯、ベガバンクにつけてもらったんです。・・・ボルサリーノ。これでやっと、別れられる。」
「わ、わっしは、別に、」
「君はもう背負わなくていいんだ。その優しさに浸かっていては、互いに歩けなくなってしまう。君を解放したくて、実はうんと前から相談はしていたんだ。ただ、一般的な人工声帯ならまだしも声の再現っていうのは難題すぎてね・・・十年、かかってしまったよ。」

表情だけで何を言いたいのか分かってしまう。それが今は苦しい。ボルサリーノは無意識に半歩下がり、誰でもいいからすがりたいのだろうつるのコートをつかんだ
発せられる言葉の一つ一つが、ボルサリーノに突き刺さっていく

「別れよう、ボルサリーノくん。今までありがとう。」
「・・・もう、決めたんだねェ。」
「うん。」
「***が望むなら、わっしも、別れたいねェ。」
「なら決まりだ。すぐには難しいかもしれないが、これからは善き友としてよろしく頼むよ。」

叫び出したかった。罵って、熱を抱えたまま慢性的に***を求める浅ましい体を呪って、覚悟した処女喪失もなく終わった事実に泣きたい
ボルサリーノは確かに***を好きで、***は確かにボルサリーノを好きで、互いにそれが事実でそれを互いに知られてはならないと思い込んでいる

つるは好きあっている二人の突然の破局に声もかけられず、センゴクに報告へ向かう***を見送ってから放心するボルサリーノを見上げた

「・・・よかったのかい?」
「・・・・・・なにがですかィ?」
「好きなんだろう、***を。」
「ええ・・・でも、向こうは、っ、ちが、う、みてェで、っ、」

ぼろぼろと涙が溢れる。この痛みを覚悟していたはずで、ぽっかりと空いた穴は憂さ晴らしに海賊どもを拿捕なり殲滅なりすれば多少偽れる予定だった
それなのにこの痛みは、熱さは、虚しさは、どう抗おうとも消えそうにない。ならばどうする。どうしろと、いうのか

「おつるさん・・・」

灰の暗く笑ったボルサリーノに、つるは躊躇う気持ちを抑え込みなんだい、と返す。それが、精一杯だった

「もう一度ヒドイことがあったらァ・・・まァた、わっしを見てくれますかねェ〜・・・?」
「ボルサリーノ・・・あんた何を、」
「そんな顔せんでくださいよォ〜・・・オォ〜・・・わっしはただねェ、存外諦めが悪いってェ自覚しただけですからねェ〜。」


真っ直ぐ伸びて***に絡み付く、それは愛という名の憎しみなのかもしれない



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