罠にかかった玩具が一つ *


※加虐趣味の変態にロックオンされた話

※諸々汚い

※グロは予告無く全面にひろがっている



ボルサリーノには記憶のない空白の一年が存在した。サカズキもクザンもセンゴクもゼファーもガープもつるも皆、口を閉ざす一年。もやもやしたまま、かといって手掛かりを見つける気にもなれず、そうしていつしか無いことが当たり前になったある日、ボルサリーノは頭を鈍器で殴られたかのような衝撃で恋に落とされた
正確には、沸き出た記憶の断片に恋を錯覚させられた

「君ィ、名前はなんていうんだァい?」
「は!自分は***軍曹でありますボルサリーノ大将!」

下っ端の、精悍な顔付きで正義を見つめる海兵。ただの駒といっても差し支えない、たいした武勲もない海兵。それがどうしてこんなに気になる。それがどうして、世界に色がついたかのように魅力的なんだ
ボルサリーノはどうしても***が欲しくて、***が触れさせてくれる優しさを求める
体は強張ったまま、心が望んだ

「そう・・・今晩、一緒に食事でもどうだァ?」
「自分あまり手持ちに余裕がありませんので、そこらの定食屋でも構いませんか!」
「いいよォ・・・君といれるならなんだってね〜。」

恋は何度目かのデートを経て実り、恋人になって互いの家を行き来する。優しく真面目な***に惚れ込み、***もまたボルサリーノの冷酷さや誰とでも上手くやれるが誰と気があうこともあわないこともない性格を好ましいと言ってくれた
両想いで堕ちた恋の先、ボルサリーノはその空白の一年を唐突に突きつけられたのだ。***の手によって

「んう・・・***、?」

自分を受け入れるのは辛かろうと差し出した体は、ボルサリーノが知らないところまで***に知り尽くされている。余韻に浸る間もないくらいにくたくたになるのも汗だくで寝落ちるのも好きだ

「起きました?」

いつものように気怠い朝を迎えたボルサリーノは、この瞬間まで***との関係を疑ってなどいなかった。微塵も

「起きたけど〜・・・なんだか体が怠くてねェ・・・、え?」

鈍く擦れた金属音。体を強張らせたボルサリーノに、***はいつもと同じように笑っていた

「っ、は、・・・あ、」

慣れさせられた手枷は海楼石で出来ている。つまり今、ボルサリーノは生身の人間ということ
笑顔の***がブレ、記憶の断片と重なる。途端に襲う息苦しさの正体は恐怖で、ボルサリーノはごくりと唾液を下して青ざめた

「う、あ、ぁあああっ!!」

頭が痛い。割れる。だがボルサリーノは蘇った空白のままが幸せだった一年に逃げた。鎖が自由を阻めばガチャガチャと鎖を鳴らして千切ろうともがき、クローゼットから出された刀に焦るような呼吸を繰り返す
手枷を外そうとするボルサリーノに、***はただ柔らかく笑うだけ。それが一層恐慌状態にさせ、刀が脚を拐えばボルサリーノは意識を途切れさせる

あんまりな現実に気を失ったボルサリーノを誰が責めるのか。気にせず取り出された鋸は手枷ない腕に宛がわれ、手の甲を踏まれて床に押さえつけられた状態で引かれた

「ひっ・・・ぎ、!」

激痛にぱちりと目を開けたボルサリーノは戦慄き、ぎっこぎっこと引いては押してを繰り返す鋸をどかそうとするも鎖にそれ以上余りはなく叶わない
鮮やかなピンクの肉は瑞々しく赤に彩られ、筋は可愛らしく抵抗し、骨は粉を落としながら切断されていく
ギロチンのように一思いに断ってくれればいいものを、持続する痛みに気を失っては引き戻され、夥しい量の出血に死を過らせた
噎せ返るような濃厚な香り。ごとんと床に付いた腕に過呼吸になるボルサリーノは肩口に近い二の腕にぐちゃりと食い込んだ指先に嘔吐し、柔らかな肉を掻き分けた先にある白く美しい骨を露出させられ歯を食い縛りながら喉をひきつらせる

「ぎアっ・・・!」

二の腕を細い紐で縛るだけの、ただの止血を施した腕に興味は失せたようだ。次はと指が太ももを撫で、良いもの見つけたとばかりに股ぐらを***は見下ろした



罠にかかった玩具が一つ




「ひあ゛っ、」
「君は直ぐに快感へ変換してしまうから萎えるよ。」
「あ、あっ・・・、ん゛う、ゥあ゛ッ!」

パキンと折られた指に散々いじくり回され熱を持ったままの体が跳ねる
引き抜かれた玩具がシーツに転がり濡らして、ボルサリーノの体が捩られた

「もっ、帰りてェよォ・・・っ!ひぐっ!?」

爪を剥がされ関節ごとにあらぬ方向へ指を折られ、タバコで皮膚を焼かれる。本来のボルサリーノなら耐えられたそれも全て、海楼石の錠と抉りとるように奪われた視界で崩れた。逃げるための脚は、最初に奪われたまま

「はぐっ、ぐ、ゥ、ひっ、」

帰りたいと言わなくなるまでと、放置された時の恐怖が分かるか?ひしゃげた指も剥がれかけの爪もそのままに一人暗闇にいる恐怖が誰に分かるというんだ
ボルサリーノは糞尿を垂れ流し空腹に吐き戻し、それでも足音一つ聞こえない部屋に泣き叫んで、体中が痒くて床を転げ回っても顔も知らない相手は帰らない
寒くて歯はカチカチとぶつかりあい、そうして可笑しくないのに笑いだしてようやく、部屋に新鮮な空気が舞い込んだ

その時とったボルサリーノの行動は、浅ましく卑屈に、けれど確かに媚びるもの。顔も知らない相手の足にすり寄り鳴いて、置いていかれないように甘えるだけ

「ああ、すごいぞくぞくするよ。」

興奮したような声に反応する間もなく床に転がされたボルサリーノは腕にめがけて降り下ろされるハンマーを理解して暴れる
力のないそれを押さえつけたのはみぞおちを踏みつけた足一つで、歯はただ抜かれるのではなく砕かれてから歯茎も巻き込んで抜かれる。ボルサリーノは思った。自分にどんな恨みがあるのかと。職業柄、見当がつきすぎて逆に見当がつかない
その後寝る間も惜しむように殴られ蹴られ、垂れ流した糞尿に転がされ、ああ、死んだな。と思える長い時間暴行を受け続けた

「起きました?」

いつの間に気を失っていたのか?ボルサリーノは手首に枷はあるも無傷の自分に跳ね起き、そしてベッドサイドでリンゴをウサギの形に切っている青年に振り向く
喉がカラカラで、血が足りないのかクラクラして、どうぞと唇に宛がわれたリンゴに混乱したまま、ボルサリーノはリンゴをかしゅっと噛んだ
口一杯に広がる甘味と仄かな酸味。果汁は口内を潤しボルサリーノの目には涙がじわりと浮かぶ

「痛かったでしょう。辛かったでしょうわかります。」
「ひっ、う、ううっ、う、あっ、」

なぜ泣いているのかわからず目の前の男が誰なのかもわからないまま、ボルサリーノは毒でも構わないと何日ぶりかわからない食べ物を受け入れた
優しい味に漏れる嗚咽を必死に飲み込み、背を撫でてくれる男にしがみついて無傷になっているくせに震えて言うことをきかない体を崩れさせる

「とりあえず、休んでください。何か欲しいものはありますか?気がかりなこととか。」
「・・・誰でもいいから、同僚に会いたいねェ〜、」
「わかりました。少しでも会えるように頑張りますね。」

それから五日、ひどく柔らかく優しく笑う男に世話をされ一人で歩けるようになるまで回復したボルサリーノは男に礼を言い、またあのおかしなのに捕まる前にと去ろうとする
そんなボルサリーノの足元に、バラバラと何かがまかれた

「何だァ・・・?」
「少しだけですよ、会うのは。」

意味もわからず拾い上げた一つを刹那で落としたボルサリーノは再び嵌められた手枷にひきつる
力の抜けた自分に起こりうる最悪は死ではない。ボルサリーノはなぜ気づけなかったのかと、男を見上げて汗を垂らした

「あなたみたいなガタイの、腸の長さってどんなでしょうか。」

そして始まった拷問は連日続き、その後優しく甘く世話をされる数日間。また数日拷問を受け数日休む。それは一年、ボルサリーノが男を愛していると錯覚し、世話をされる間まるで恋人かのように過ごしてしまうまで繰り返された

そして一年後。海軍本部のごみ置き場に棄てられたボルサリーノは、自分を守るための逃避で全部を忘れたのだ。またね。そんな、囁きも全て



「ああ゛あァっ・・・!」

じゅわりと焼ききられた腕が、脚が、自分から自由を奪う。記憶を反芻していたボルサリーノは今の痛みに引き戻され、現実に恥も外聞もなく呻いて鎖を鳴らすだけの腕をばたつかせた
***は笑って、苦痛に歪む顔にくわえていた煙草を押し付ける。短くなったから火を消した。それだけだ

戻った記憶の中。穏やかで優しい***にすがってしまう。探してしまうのだ、***の良心を
けれど、***には生来善意や優しさというものが無く、絶望や流血や絶叫が大好きな人間である。おおよそ人間らしさというものを持ち合わせていない、ボルサリーノが望む人間ではけっしてない。いくらすがりついても媚びようと、全ては無駄。徒労に終わるだけ
それでも今日も、本当は優しい***を探し、***を好きなまま、ボルサリーノは自分が何者かわからなくなるまで気を失うことすら許されずに色んなものを失っていった


「今日はどんな顔が見れるかな、海軍大将さん。」



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