所用でいつもより昼食の時間が遅くなった不破と鉢屋が午前中の授業内容を振り返りながら食事をしていれば
そこへ同じ五年生の***が、定食を持ちながらふわふわした足取りで近づいた
「あ〜、雷蔵くんと不破くんだぁ・・・あれ?不破君お顔が悪いよぅ?」
「おはよう***。」
「・・・私は不破じゃない。ついでにいえば、面はいつも通りだ。」
へらへらと笑いながら不破を雷蔵くんと呼び鉢屋を不破くんと呼ぶ***は、入学したときからずっとこんな感じだ
変装が見破られなくて嬉しいと思っていた鉢屋も、訂正に訂正を重ねても一向に名前を覚えない***に、***をみると眉間に皺が寄るようになってしまっていた
不破と鉢屋二人でいるときも決して鉢屋を呼ばないのは、最早わざとではと感じてしまう
「あれぇ?また間違えちゃったぁ〜・・・ごめんねぇ?」
「二人でいるときくらい、間違えてもいいから私の名前を出せ。」
「う〜ん・・・雷蔵くん雷蔵くん。不破くんのお名前はなんていうのだろぅ・・・?」
コソコソと話しているつもりなのだろうか?一切コソコソ感がない***に、不破は苦笑する
「鉢屋三郎だよ。」
「あれ〜・・・そんなお名前だったかなぁ?」
「この会話も何度目だ!覚える気あるのか!?」
不機嫌そうに睨みつけてくる鉢屋に、***はやはりへらへらと笑う
「あるんだけどねぇ〜・・・ごめんよぅ?今度は覚えたからねぃ。」
「これだからアホのは組は。」
「怒らないでおくれよ〜悪気はないんだよぅ?」
「悪気はなくても悪意はあるだろ。雷蔵、私は先に行く。」
「う、うん、」
「不破くん、悪気もないんだよぅ?」
「っ!」
ガチャン!と音をたてて立ち上がった鉢屋は***を睨むが、へらりとした笑顔に荒々しく食堂を出て行く
そんな鉢屋にひらひらと手をふり見送れば、その鉢屋がいた席に***は静かに腰掛けた
いただきます。と手を合わせ、ぱくぱくと箸を進める***に、不破はため息をついて橋を置く
「あまり、三郎をからかわないでやってくれないかな?」
「なんのことだぃ?」
へらりへらへら。
掴み所のない笑顔を保つ***に、またため息を漏らす
「僕は必ず雷蔵。三郎は必ず不破と呼ぶんだから、見分けはついてるんだろ?」
「くふふ・・・」
珍しく笑い声なんてものを出した***に、不破は少なからず驚いた
「ボクはねぇ、不破くんがだぁいすきなんだぁ・・・」
「知ってるよ。」
「でもねぇ、ボクは不破くんに嫌われてるからさぁ・・・こうやって気をひいてるんだよぅ?ほらぁ・・・好きな子は虐めたくなるっていうからさぁ〜?」
「・・・三郎も、***を好いてるよ。ずっと。」
「くひっ、くふふ・・・雷蔵君は意地悪だねぇ?不破くんに知っていることを教えて上げればいいのにぃ〜・・・ボクは今のままで構わないけどねぇ?」
「・・・君だって、三郎の気持ち知ってるならせめて名前を呼んであげればいいのに。」
「くふっ、嫌だよぅ・・・ボクはねぇ、臆病者なんだぁ〜傷つき易いしねぇ?ごちそぉさまでしたぁ。」
ふらふらと覚束ない足取りで食堂を出て行く姿を見送り、不破は深いため息をついた
雷蔵くんと不破くん
「あ、不破くん不破くん、今日は学級委員長委員会かい?」
「だ、か、らっ!!私は鉢屋三郎だっ!!!」
そこまで言って、ハッとした
「お前っ!見分けつくんじゃないか!!」
「くひっ、なぁんのことだい?」
「おい待て!!」
「あいつらなんなの?雷蔵。」
「バカップル。」
「えっ、付き合ってんの?」
「ううん。」
「?」