夢の中で会いましょう


原作改変




刀から血が滴る。ティーチは叫び狂いながら***から悪魔の実を奪おうとして、それはもう一度おれの手に
へいパスと手をあげた***は欄干に立っていて、混乱したまま咄嗟に投げればうまい具合に***の手におさまる

「寄越せ!!」
「大好きだよサッチ!」
「***・・・?」

がぶりと悪魔の実を食べた***はいつものように笑って、唖然とするティーチを押しのけおれのそばに寄った。思わず後退りをしたおれは***の目の色にひくりとのどをひきつらせ、抱きつかれて甲板に尻餅をつく

「何も怖くないから、大丈夫だよ・・・サッチ。」
「なん、」

まるで生きることを、そこに在ることを拒絶されたかのように弾け飛んだ***を浴びながら、おれは意識を手放した

起きたとき、おれは絶望が拭われないことを知った。ティーチは裏切り者を粛清した功労者として、***は裏切り者の汚名を。おれはそれでいいかと目を閉じた。なぜか、何も考えたくないんだ。おれがさっさとあの悪魔の実を食ってればこうなんなかったんだから、おれのせいなんだし、***はもういねェから
そうしておれは、努力を全て放棄して微睡みに委ねて意識を沈ませた

「サッチ!」

うるせぇな
そう言おうとして、違和感に目を開ける

「サッチ敵船!今日は四番隊の番!」
「んあ・・・あ?***?」
「そうだよ早く起きて!手柄たてて親父に喜んでもらおうよ!」
「お、おう、」

手を引かれ、甲板にでて、敵船を見て全身に鳥肌がたった。訳が分からないまま***に引っ張られ敵船に乗り込んで、見つけた宝箱に血の気が引く

「やったじゃんサッチ悪魔の実じゃん!お揃いだな!」
「いやまだ食べるって決めたわけじゃ・・・、あ、」

同じだ。同じ。逃げ出したおれは、いらないのかと叫んでくる***にいらねェと返し、悪い夢だとベッドに潜る
部屋の外にある気配は***とティーチ。ガチガチと歯が鳴って、どうすればと瞬きもできずにドアを見ながら勝手に流れる涙で視界を滲ませた

「欲しいのか?なら報告終わったらやるよ。それまで待ってな。」
「ゼハハハハ助かるぜ***!」

これでいい。素直にやってれば***は死なねェ。だから、お願いだ。こっちが現実で、あっちが夢なら、おれはまだ息ができるから

「約束だぜ***。食っちまうなよな。」
「おう安心しろ。それに、おれはもう一つ食ってっから、爆発して死んじまうよ。」

それでいいんだ。***が生きてて、ティーチはおれのダチのまま、こうすりゃ誰も傷つかねェんだから
おれは部屋に入ってきた***を見て、顔色が悪いと心配しながら頬を撫でられ目を瞑った。涙が押し出され、それは丁寧に拭われる

「・・・好きだ、***。」
「おれも好き。」
「なあ、***の悪魔の実、どんなの食ったんだ?」
「ええ?なんだよ今更。」
「なんか、嘘を本当にするような、なんかかなってさ。」
「あはははは!んなわけないじゃん!変なサッチ。」

笑う***は額にキス一つ、熱でもあるのかと心配してくれるが違うんだ。おれはそこに確かにいるのを確かめるように***を抱きしめ、しようとベッドに押し倒した

「サッチ・・・?」
「これは、現実・・・だよな?」
「え、サッチ本当にどうしたんだ?」
「あれが悪い夢だよな!」

語尾を強めたおれを、***は優しく抱き寄せバカだなと笑う。当たり前じゃないかって、いつものように笑う。おれは安心して、何も考えず全部忘れて***のニオイに包まれた




夢の中で会いましょう




「サッチ!サッチ!!くそっ・・・!」

苛立たしさを隠せず壁を殴ったマルコは空いた穴に行動を振り返り、深い深いため息をつく。サッチが眠りについてから早2ヶ月、心音は日に日に弱まり呼吸が止まることも多くなっていた
マルコは四番隊の世話もしながら、今日こそは今日こそはとサッチが目覚めるのを待ち続けている。今も、サッチの呼吸が止まり心停止まで重なって医務室はドタバタと騒がしくなっているのだから、マルコも今度こそと不安で仕方ないのだ
ジョズに肩を叩かれ隈をこさえる顔を向けたマルコは、外傷のないサッチに目を細めてギリと歯を食いしばった

「***の裏切りが、サッチをこんな風に追い詰めてんのかねい・・・」
「仲間であり家族であり親友であり恋人だった。サッチが逃避するのは、当然なのかもな。」
「・・・・・・***、」

なんだってお前が。自分が泣きそうになったマルコはなんとか持ちこたえたサッチの状態を伝えに船長室を訪れ、そうかと目を伏せたエドワードに尋ねる。***はなぜ、裏切ったのかと
だがエドワードは酒を一口、笑うように息を吐いてマルコをじっと見つめた

「***はサッチを助けてんだろうよ。」
「・・・意味、わかんねェよい。」
「***は一生に一度きりと決めた力を今際の際に使ったんだろう。サッチのためにな。」
「食ったっつってた悪魔の実、かよい。」
「夢に干渉する力だとか言ってたが、真相はわからねぇ。ただ、魘されてるわけでもねェならサッチはいい夢見てんだろうな。」

空になった酒瓶を置いたエドワードは複雑そうなマルコの顔にグララと笑い、不器用な奴だと懐かしむように目を細める
その姿は欠片も***を疑っていないようなもので、マルコはますますわからなくなったままいつも弾けるような笑顔で挨拶をしてきてた***を思い出しがしがしと髪を乱した

四皇の統べる新世界は今日も平和だ。衝突も戦争も起こらないこの海で、今日もモビーの一室では穏やかに眠り続ける一人の男が幸せな夢を見ていた




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