仰せのままに


映画ネタバレ



ダイスと遊べる黒服がいる。そんな奴がいたかとある海賊を嵌めた後夜祭の席で探せば、ダイスに酒を注がれ断りきれずに飲み干している黒服が一人。色素の薄い髪に細い体。色が白くて浮かぶ笑みに近視感。黒服は酔っているようで、さあ来いと言わんばかりのダイスに遠慮がちに腕を引いた
そして、ダイスの頭目掛けてその拳を叩き込む。ダイスは小柄な黒服の拳で悦くなり、もう一回と酒を注いだ。黒服は酒を飲み、上半身だけ裸体になり筋肉を膨張させた

その背にある焼き印は、かつてステラで上書いた忌々しい印そのもの。十分に熱した焼き鏝を持ってくるよう指示した私に、気づいた部下が黒服にジャケットをかけ何か必死に訴えているが、今更変わらないさ

「バカ野郎お前テゾーロ様の部下なのにそんなもん晒すな!」
「え?なに?どれ?」
「***!もっとだ!」
「ダイス様これ以上飲めないから、」
「早く着ろ!」
「ちょっと待ってくれいっぺんに相手は」
「目障りだ。消せ。」

床から這い上がる黄金に足を絡め取られた黒服はジャケットをつかんだままぱっと私を見る。手にある焼き鏝にゆっくりと目が動き、更に一歩近づいた私にジャケットをかけようとしていた部下が庇うように間に入った

「・・・なぜ割って入る?」
「あ、あのですね、あの、こいつちょっと抜けててですね、」
「邪魔だ。どけ。」

鏝が冷めるだろうと黄金で絡め顔を塞ぎ、私ともがく部下を交互に忙しなく見比べる黒服の手からジャケットを剥ぐ

「ぅえっ、あ、」
「その焼き印が目障りだ。」
「え?え、その真っ赤なのは、」
「黙って背を向けろ。」
「ま、まってくださっ、ま、や、」

腕をつかみ体を捻らせ、その背にある天駆ける竜の蹄の印にステラを上書く。バカラは確かにステラに面立ちが似ているが、こいつは雰囲気が似ている。なら、惜しくはない。ステラも、こうやって畏れたのかと思えば、喧しいだけの悲鳴も悪くない。また一つ、憎しみの糧となるだけだ

「やめっ、あ〜〜〜ッ!!」

床から伸びる黄金に四肢を捕らえられる黒服は涙を零しだらりと垂れる
力の抜けた体は黄金だけを支えに、男にしてはずいぶんと高めの声が荒い呼吸の合間に漏れた

「こんなものか。」

押し付けていた焼き鏝を剥がせば綺麗に焼けたステラがいる。ステラはあの忌々しい印を消し小柄な黒服の背の殆どを埋めてそこにいた
黄金から解放され床に崩れた黒服はこつりとベルトをつついた私にはっと息を吸い泣いてぐしゃぐしゃになった顔をみせる。手を伸ばせばびくつきながらも受け入れ、手当をしてやろうと言えば緩やかに頷いた

「とりあえず消毒だな。ダイス、その酒をかせ。」
「は、はい!」

呆気にとられていた周りが、酒をかけられ悶絶する黒服の絹を裂いたような悲鳴で動き出す。私が笑っているからか、周りも笑う。黒服は嗚咽を押し殺しながらそれでも澄んだ目を保たせた

「テゾーロ、さま、」
「晒すならそれを晒せ。目障りだ。」
「申し訳ありません、」
「しかし声がいやに高いな。」
「あ、はい、去勢されて、女性ホルモンの注射をされていましたから。成長が止まってしまっています・・・ので、」
「それであの腕力か。」
「筋力増強をされてもいまして・・・あ、アンバランスですよね、すみません気持ち悪くて・・・」
「名前はなんだ。」
「・・・・・・***、です。」

黒服、***の顔を上げさせれば、***は透き通った目を涙で滲ませ、私が呼べばその目を輝かせはい!と笑う
名前を呼ばれることに喜びを植え付けられたらしい***の笑みは穏やかで美しく危うさが見え隠れしていた。すっかり酒を飲む気分ではなくなった私は後は楽しめと部屋に引っ込む。***を連れて

「あの、テゾーロさま、」
「髪を伸ばせ。」
「は、はい、」
「いっそ女の格好でもして過ごしたらどうだ。」
「え?あ、はい・・・?」
「そうだな、これがいい。これを買ってやろう。」
「本当にそれ、女物のドレスでは、」
「同じことを何度も言わせる気か。」

びくりと強張った***は何度も頷きながら私が電話をかけるのを見て、そしてまあいいかとでもいうように笑みを浮かべた




仰せのままに




「似合うぞ。」
「ありがとうございます。」

清楚を形にしたようなドレスは胸がないことをカバーするために胸元が少し華やかだ。テゾーロ様は満足そうに頷いて、化粧を教えてもらえとバカラ様を呼び出す
バカラ様は似合うじゃないなんて笑みを浮かべ、化粧の仕方を丁寧に教えてくれた

「・・・一応、男なんだけどな。」
「あらいいじゃない。性別なんて強さや人間性には何も関係ないんだから。」
「そう、かな。」
「そうよ。女らしさと男らしさを併せ持つのだから、素晴らしいことでしょう。テゾーロ様がそう望まれたのだし、いいじゃないの。」

こんな男でも?そう呟いた自分の声は嫌になるくらい高くて、でも地声でないとこの姿には似合わない。声を作らなくていいのは楽だけど、怖いんだ
でもバカラ様は手袋を撫でながら、どんな欠点も長所に変えてくださるわと、慈しむように笑った
だから、多分、大丈夫なんだ。テゾーロ様の言うとおり、容姿と声に良く似合うこのままで




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