神様の言う通り *


※キャラの死多数


屋敷内が騒がしいなと、前田と帰った私は何か楽しいことがと顔を見合わせただいまと声を張る。いつもならいの一番にお帰りを言ってくれる加州がいないのが少し寂しくて、でもそんな贔屓はいけないからと首を振った

「・・・血の臭いがします。」
「え?誰の?」

そこまではといいながら刀を抜いた前田がしっかりと前を見ているから、私は近くの戸を開ける。納戸としての役割を存分に果たす玄関横のその部屋は二畳程で、そこに脱いだ靴をしまった。普段使いの靴ではないから、外に出したくない。邪魔になる

「主様助け・・・!」

不格好な足音と叫びに私に何か言いかけた前田は口を開けたまま、私と一緒に呆然としてしまった。今剣が、半身で、あれ?なんで・・・?

「主、様・・・、」

ごとんと頭が床に落ちる。目はガラス玉みたいで、刀は折れていた。怖いと、私は前に立って守ってくれようとする前田の手をつかみ、屋敷の外の小屋に連れていき押し込んだ
屋敷の奥から断末魔みたいな絶叫が聞こえて、揃ってそっちへ駆けだした

「主様が隠れてくださいっ。」
「何かあったらっ、私にっ、外へ知らせて!前田にしか頼めないの・・・!」
「ですが!」
「主からの命令だよ。」

びくりと強張った前田を抱き締めてから、唇を噛みしめる前田ににこりと笑って、私の震えた手が扉を閉じる
そうして私は、定例報告へ赴くためのスーツを着崩して屋敷に駆け込んだ

「主・・・?ああ、もうそんな時刻か。まったくタイミングが悪いよ、こんな格好悪いとこ見られるなんて。」
「燭台切、」
「加州の気持ち、僕には少しわかるよ。」
「何を、加州がなに?どうしたの?」

廊下に座り込む燭台切のそばにある刀は燭台切が触れればバリンと割れて、ふっと、魂が抜けた。燭台切は半分笑ったように顔を作ったまま、額から血が一筋新たに垂れる以外動かなくなってしまう
何を言えばいいかもわからずがむしゃらに屋敷内を走りまわって、そこかしこに転がる魂の抜けた刀剣男子と金属片に涙がぼろぼろと零れた

「秋田、一期一振、あれは、っ、日本号!次郎まで、小夜も、・・・?あ、れ?小夜、じゃない、の?え、宗三、」

桃色の髪が血に濡れて変色してる。髪はバラバラで、足が・・・足、手は?どう、して・・・?

ふらついて当たった襖ごと隣の部屋に倒れた私は、むわっと立ち込めた血生臭さに口も鼻も塞いで体を起こした

「蜂須賀、浦島・・・っあ、ああ、」

浦島を守るように被さる蜂須賀。そして、二人を守るように立ちはだかったまま息絶えている長曽根。みんな、首が、ない。短くて浅い呼吸しかできない私はふらふらになりながら廊下へ飛び出て、段々乾燥してない赤が鮮やかに染めている壁や障子が増えていくのを見ながら走る
何度も吐きそうになって、そんな暇はないと自分を叱咤した。今すぐにでも逃げ出したくなった私を奮い立たせたのは、一番始めに出会った寂しそうに笑う綺麗な刀の存在だ

「主っ!早く逃げるんだ!」
「えっ?あ、歌仙っ!よかったっ!よかった無事で、」
「僕も主が無事で嬉しいよ。だから、早く逃げてくれ。」

ぐっとつかまれた二の腕に振り向いた私は、重傷でも破壊には至っていない歌仙にほっと息をつき引きずられるように歩く。次第に強くなる引きに足がもつれて、血糊にずるりと足を取られて転んだ
刹那。頭上を通り歌仙に突き刺さった刀に、走馬灯のように人生を蘇らせた

「歌仙っ・・・!?」

黒と赤の刀。どうしてもと乞われて彫った私のあだ名が金色に浮かぶそれは、絶対に間違えるわけがない加州自身。ゾッと、背筋が凍った

「ッ、加州っ!加州、どこっ、」

ガチガチと歯が鳴る。ドクンドクンとうるさいくらいだった心臓は止まったかと疑うほど静かに、私は息の仕方を忘れたかのように酸欠になり加州を抱えたまま走った
加州が刀をとられるなんてよっぽどだと、必死に名前を呼び屋敷を走り回る。早く会いたい。無事だと、笑って欲しい

「加州清光っ!!」
「お帰り主、早かったね。どうしたの。」
「よかった加州、加州・・・?」

振り向いて、姿を確認して、息をのむ。思い出したはずの息の仕方はまた彼方に飛んでいき、私はただただ血濡れで笑う加州から一歩ずつ後退った

「主?」
「か、加州の、刀っ、」
「主が持ってるでしょ。」
「なら、そ、れは、なに、」

ああこれ?首を傾げた加州は手にあった青の入る刀の残骸を床に落とし、無くなったよと手を払う
意味が分からなくて、恐怖で縮こまった体に抜き身の刀が食い込み加州の刀を床に落としてしまった

「あッ、」
「さっきうっかり投げちゃったんだよね。ありがとう主。」

床に刺さっていた刀を抜き手にしたまま近づいてくる加州は、私を柱に追い詰め刀を構える
悲鳴すら上げられずにひゅっと息を吸った私は、首スレスレに刺さった刀にへなへなとへたりこんでしまった
ちゃらと刀に巻き取られたネックレスはふわりと宙に浮き、加州は滑らかに刀を動かしてネックレスを細切れにする。カツンと落ちたシンボルに、私は釘付けだ

「主様っ!」
「っ、あ、いやっ、だめ!来ちゃだめ!!」
「そっか、主が気紛れで連れてったんだっけ。」

前田が刀を構えて走ってくる。特攻に震えたまま叫んだ私の手なんて届かず、前田は呆気なく破壊された

「あ、ああっ、・・・う、あ、ま、まえ、前田、なん、」

伸ばした手はそっとつかまれ、瞳孔の開ききった目で見つめられて動けなくなる

加州が、おかしくなっちゃった




神様の言う通り




「ねぇ主、主の近侍はオレだよね?」
「う、ん・・・、」
「ならさぁ、主はオレのそばから離れちゃ駄目でしょ。」
「か、加州、」

なぁに?綺麗な笑みを浮かべながら首を傾げる初期刀は、審神者がまだ普通の人間だった頃に呼ばれていたあだ名が光る刀を優しく撫でる
カチカチと寒さに震えるように鳴る歯は、声なんて発する余裕はないと物語っていた。審神者は怯えながら初期刀を見つめ、すらりと刀が動いた軌跡を目だけで追う

「ひ・・・ッ、」
「ちょっと主、逃げないでよね。」
「加州っ、加州加州加州っ、落ち着い」
「主こそ。」
「こんな、ま、間違ってるっ、から、だから、」

太ももを掠った刀は審神者の血を吸いながらキィンと鳴った。審神者は痛みなんて感じる余裕はなく、刀が胸にそっと宛がわれ涙すら拭えない

「***。」
「あ゛、」

水面に一滴のインクを落としたかのように静かに波紋が広がる。優しく口にされた名前は審神者が隠してきた真名で知られてはいけない名前だ
審神者は指の先まで広がったかのような痺れにも疼きにも似た感覚に怯え、頬に触れた刀に目の一つも動かせない

「大好きだよ、***。」

中から外に弾けるように、自由が奪われる。まるで魂を縛られたような息苦しさと隷属化の心地よさに頬が自然と染まった
刀の神様に真名を呼ばれ囚われた魂は輪廻から外れるのだろう、それが軋んで朽ちるまで神様である刀剣男子が所有するのだろうか?神様に名前を知られる恐怖を身を持って体験する審神者は、指一本自分の意思では動かせない焦りより今まで共に歩んできた人生や刃生を否定されたような思いの方が強まり力なく息を吐き出した

「こうなりたかったんでしょ?略称、教えてくれたんだから。」
「ち、が・・・ぁ、かしゅ、か、」
「オレとずっと一緒なの、嬉しいでしょ?主。」

逆らえない。抗う気力は前田を破壊されたのと同時に折られた。審神者はぎこちなく笑い、それで初期刀は良しとする
キラリと光った刀が、審神者の自由を奪うために振り下ろされた

「オレだけを、可愛がって着飾って大切にしてくれるって言ったもんね。」

あとはもう、神様の裁量次第というやつだ



「刀剣乱舞」「女審神者」「加州清光」「ヤンデレ」



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