伝説の戦士


「みんなどこーっ!?」

バタバタバタと海軍本部内を走り回る少女に、海兵たちは呆気にとられたまま誰一人として声をかけられない。少女は疲れているのか時折ふらりと壁に当たって、それでも走るのを止めないのだから余計声をかけづらい

「騒がしいと思ったらァ、オ〜・・・随分と可愛らしい侵入者だねェ〜・・・?」

ピカリと光ったボルサリーノが背後から少女を貫き、廊下に崩れる少女を踏みつけた。呻く少女は、歯を食いしばりあなたは誰と搾り出す

「ん〜・・・?わっしが誰か、知らねえのかァい?」
「知りませんっ!とにかくっ、フュージョ ンが近くにいるはずなんです!逃げてください!」
「オォ〜・・・わっしに逃げろとはねェ〜・・・」
「何をしとるんじゃァ・・・ボルサリーノ、不審者ならさっさと始末せんか。」

慌ただしい雰囲気に執務室から出てきたサカズキと少女を踏みつけたままのボルサリーノ。この二人が揃ってダメなら侵入者である少女を捕らえられる海兵はまずいないだろうという安心感で、騒がしかった海兵たちは落ち着きを取り戻し誰かはセンゴクへ誰かは監獄へと連絡を取り始める
少女はぐっと何かを握り締め、ミシミシと軋む体に何とかボルサリーノの足から抜け出そうともがいた

「あららら、大将二人でかわいこちゃんイジメ?」
「クザン!おどれまた遊び歩いちょるんか!!」
「いやいや、ちょぉーっと散歩してただけだから。」
「それをサボリと言うんだよォ〜?まったく、いい加減にしなよォ!」
「わーかったよ。」
「その、声・・・」

ギリと握り締めている手にお願いと呼びかけた少女は、光り輝く手の内にぱっと顔を明るくさせる輝きは強まり、ボルサリーノは脳天を貫くべく指を向けたが、眩く光る少女に一瞬反応が遅れた
パンッと、少女は光を弾けさせ格好を変える。より戦闘に不向きなひらひらとした露出度の高い服へ変わった少女は凛としてクザンの前に立った

「思いを運べ、キュアレター!・・・フュージ ョンっ、覚悟なさい!」
「えっ、おれ?」
「この世界を壊させたりなんてしない!」

勢いよく殴られたクザンは耐えられると思っていたその一撃にふっ飛ばされ、驚く間もなくドロップキックが腹部に深く決まる
そこから更に繰り出された拳の雨に、ガラガラと崩れる体は修復も出来ずに粉になった。ボルサリーノもサカズキも、その光景にぽかんと呆けてしまう

「あ゛〜・・・酷いことするじゃあないの。」
「町を取り込み世界を壊そうとする怪人がっ、酷いですって?」
「ぜんっぜん話見えないんだけど、」

氷の結晶が集まり人型になっていくのは悪魔の実の能力者なら当たり前のこと。それに驚いた少女はもっと砕かないとと拳を握り直したが、がばりとクザンに抱き付かれ息を飲み氷り漬けられていく自身に小さい悲鳴を上げた

「まっ、けない、からっ、」
「言いてェことはあとで、落ち着いたらじっくり聞いてやるよ。」

パキンと凍りついた少女から淡く光が漏れ、少女を凍てつかせた氷が溶けていく。ミラク ルライトという清き光が悪魔の実を無効にしたのだろうか、驚いたクザンはぼこりと膨れ上がるマグマに飛び退き包み込むように少女が灼かれていくのに頭を掻いた

「動機とか、聞かなくてよかったのか?」
「クザンが目的だろォ〜?」
「おれはフュージョンとやらじゃねェから。」
「また女関係か。ええ加減にせんとわしがそのバカを燃やしちゃる。」

きゅっと急所を隠し結構ですと首を振ったクザンは、少女の姿にたらりと汗を一筋やばいかもよと腕を氷化させる
少女は淡い光に守られるようにマグマに灼かれず、強くサカズキを見ていた

「あなたも怪人なのね・・・!?」
「その怪人ってぇのは〜・・・どんな奴らなんだァい?」

背後から腕を掴まれ拘束された少女はボルサリーノを振り返り、サングラスの奥の目に怯む
ボルサリーノはにこりと笑い、クザンとサカズキに落ち着くように目配せした

「とりあえず、センゴクさんのとこへ行こうかねェ〜・・・?」




伝説の戦士




「プリ キュア、か。」
「はい。わたしはプリキ ュアのみんなと一緒にフュージョンと戦っていて、気づいたらここに・・・それで、まったく同じ声のあの方をフ ュージョンとだと、その、思い込んでしまって・・・大変、申し訳ありませんでした。」

深く深く頭を下げた少女は姿を元に戻し、しゅんとしたまま俯く。じわりと浮かんだ涙に、まだ14歳だという少女を大柄な男四人が取り囲む図という罪悪感をうまれさせた

「もし・・・あー、君さえよければ海軍で保護するが、どうかな?」
「うぅっ・・・でも、わたしご迷惑しかかけていなくてっ、」
「構わないよ、クザンが似ていたのが悪いからね。」
「え!?おれのせいですか?」

ぐすぐすと泣き始めた少女の背を優しく撫でて、センゴクはわたしが預かろうと目線を合わせ優しく笑う
少女はありがとうございますと泣きながら、ぺこりと頭を下げた

「***って、いいます・・・よろしくお願いします。」

悪魔の実が通用しない、戦闘のいろはを知らないながらあの強さ。人を守るためにその身を犠牲にできる正義の心。そして、人を引きつける華やかさ
一人の少女の一生を縛る契約じみた話に納得いかないクザンは頭を掻き、悪なら直ぐにと決意するサカズキは少女を睨み、少女のことなど興味がないようなボルサリーノは表面上にこりと笑う

大参謀つるに預けられることになった少女が今後どうなるのか、それは誰にもわからない未来だった



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