ラズベリル 3


新しい天女様をみつけた文次郎と伊作は、今度の天女様とは言葉が違うといった。実際には、小平太と忍び込んだ私は聞き取れ小平太が聞き取れなかったのだから、なにか条件があるのだろう
新しい天女様は今までの天女様と大きく容姿で異なり、輝く髪に長い手足、白い肌を保つ中性的な身体つきの中性的な面立ちの人だった
天女様は身振り手振りで何か伝えようとする。学園長は言葉がわかる側らしいが、わからないふりをしながらも、いつものように食堂のおばちゃんの手伝いというやらなくても構わないどうでも良い仕事と部屋を与えた

また、機会が与えられたと、周りが沸き立つ。私は、どうしてもそうは思えなかったが

「長次、食堂いかないか?」

丁度昼時というのもあり、天女様に興味のあるらしい小平太に誘われた私は気乗りしないまでも誘いにのり、既に何人か並んでいる後ろへ立った
天女様はすぐに食堂にあらわれ、おばちゃんはいつものように配膳の仕事を与える。さてどのくらいで私たちとご飯を食べたがるか、誰が目的か?知りたいらしい鉢屋と仙蔵が運良く一番二番と並び、無理矢理連れてこられたのだろう文次郎は三番目に嫌そうに並んでいた

「文次郎はまた仙蔵に付き合わされてるな。」

仙蔵は天女様に近づく際必ず文次郎を連れる。何かあったときに盾にするのだと宣言していたが、実際のところはどうなのか
天女様は文字が読めないらしくお品書きに戸惑い、鉢屋に話しかけられ悩ましげなまま顔をあげる。やはり、中性的だ。一人称が僕なら男なのだろうか

「あなたが新しい天女様ですね?噂通り、輝くほどお美しい。」
「ありがとう。でもダイヤのほうがうんと輝いて綺麗だよ。」

なんの話をしているのか。小平太に問われた私は口を噤む。どうも、鉢屋と天女様の会話は噛み合いがない
そんなことよりと、言葉が通じないという話を聞いていたらしい鉢屋は確認するように仙蔵を見、仙蔵はほらわからないのかと矢羽音で文次郎に問う。文次郎は首を振りわかんねぇよと呟いた
なぜわからないのかわからないと、仙蔵はため息をつきながらも文次郎が嘘をついていないとわかるのでからかうだけに留める
天女様は興味が移ったように物珍しげに食堂を見回し、少しだけ眉間にしわを寄せた

「帰りたい」

ぽつりとこぼされた言葉に驚く鉢屋が天女様に触れた瞬間、天女様は目を見開き大きく鉢屋から離れる。なにやら慌てて手袋をしはじめたが、なにが起きたのかさっぱりだ

「危ないだろ!!硬度8の僕に素手で触るなんてなにを・・・!」

しまったとでもいうように口をおさえた天女様は、なんでもない気にしないでと首を何度も振りいいから選べと鉢屋の鼻の先にお品書きを押し付けた。勢いに負けた鉢屋が選んだ食事は煮魚だったが、天女様はそれを持ち固まる

「草と、なんだろうナメクジ?いやなんだ?」

呟き皿の中身をまじまじと観察する天女様が、いきなりカウンターに食事を叩きつけ真っ青になりながら食堂から走って出て行ってしまった

「・・・長次、わたしあれよくわからん。」
「私もだ。」



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