それは突然に *


!近親相姦!




「姉さん。」
「んー?」

浴槽につく泡を流しお腹すいた?と蓋をして自動湯張りボタンを押して振り返れば、黒ズボンにシャツを着たままのエレンが入り口に立ってる。着替えないの?と首を傾げてかけてある自分のワンピースをみて、スリップも脱がなきゃとひらひらと動かした

「姉さん、は、」
「うん。」
「姉さんは、父さんみたいに、いなくなるのか?」

お父さんは用があるから今日は帰らないだけで、明日からはいるよ?エレン、疲れてるんだね。そう笑って甘いもの食べよっかと手を引こうとして逆にひかれ、タイルの上に押し倒された。鈍い音がして、頭が打ちつけられたせいでチカッと星が散る
エレンは私にのしかかりスリップの上から胸をつかんできて、痛くて眉を寄せる

「エレン、いったい、」
「姉さんが離れていかないようにするにはどうしたらいいかって、式の後半ずっと考えてた。」
「お母さんの告別式でなに変なこと考えてるの。」
「ずっとずっとそばにいてもらうにはどうしたらいいかって、ずっと・・・」

どうしたんだろう、お母さんが死んで、おかしくなっちゃったのかな。不安でいっぱいになりながらエレンを見上げて、エレンの笑顔に息の仕方を忘れたみたいに苦しくなった

「え、エレン、」
「子ども、作ろう。」
「こども?」
「生理きたんだろ?俺も、精通したから。」

保健体育の授業で習ったことを思い出した私は背筋がぞっとした。だって、姉弟でなんてしちゃダメだと思うし、結婚もできない歳で子どもなんて無責任すぎる。それをわかっていながらだからこそしようとするエレンが弟じゃない別人にみえた

「エレンやめて!」
「姉さんまで俺を拒むなよ!!」

浴室に反響した声に拒んでなんかと言い淀んだのは、エレンが泣いていたから。泣きながら笑って知らない人の名前を連ねるから
ねえエレン、アルミンって誰?ミカサって誰?リヴァイ兵士長って誰?エルヴィン団長って誰?ハンジ軍隊長って誰?知らない人の名前ばかりで、エレンがなにを怖がってなにを思って私にのし掛かってるのかわからない。エレン、私の大切な弟。お願い、遠くへいかないで

「エレンっ、」
「みんな俺に会って誰だって聞くんだ、俺を知らないって、俺は覚えてるのに!俺はっ、あんな、あんなボロボロになるまでみんなと戦ったのに・・・!」

まるでエレンの身体が脆い石みたいで、エレンが感情を吐き出すたびにボロボロボロボロ崩れて剥がれて落ちていくように感じる。涙は砂みたいに流れる頬を削って、このままじゃエレンが壊れちゃう!って必死にエレンを抱きしめた

止めてくれたらいいって思った。止めてくれなかったら泣いてやろうと思った。一つ違いだけど、私にとってのエレンは小さな、今にも破けそうなあの頃のままだから
でも、私は、お母さんとエレンをいっぺんになくしちゃいたくない

だから、私は抵抗しなかった。嫌だ怖いって思いながら、エレンまでいなくなっちゃったらどうしようって不安がたくさん詰まって、抵抗したくなかった

「姉さん、姉さんっ、好きだ、」

エレンのこれは過ちだから、応えてはいけない。でも答えなくちゃいけない。だから、私はひたすら私もだよと抱きしめ続ける

歯を食いしばらないといけないくらいの強さで肩や腕を噛まれても、項に食いつかれてギチギチとすりつぶされても、私は頑張って唇を拒否を口にせず荒い息を吐き出すだけ
エレンは私の身体に触れながら少しずつ脆さがなくなって、ちゃんといつものエレンになって、私を抱き締めながら眠ってしまう

「・・・お母、さん、」

お母さんが死んで、初めて涙がでた




それは突然に





「***、貴方の弟よ。」

くしゃくしゃで薄い皮膚は湿っているようで、頼りなげに手足が投げ出されくぅくぅと眠っている。走るようになり靴と自分用のリュックを背負う私はその不思議な生き物を弟と教わり、これが弟かと目を輝かせた

「マンマ・・・!」
「そう、***と同じなのよ。」

違うよママ、私は右目が金で左目が緑だけど、弟は右目が緑で左目が金だよ!違うよママ!キラキラと目を輝かせながら目を開けて虚空を見つめる弟の服をつかんだ私に、お母さんはクスクスと笑いお父さんを見る
お父さんは私の頭を優しく撫で、エレンだと目線を同じくした

「・・・?えー、」
「エレン。この子の名だ。」
「え、う?」
「まだ難しいか。」
「仲良くしてね、***。」
「うん!」

私は子どもながらに解っていた、エレンが自分とは圧倒的になにかが違うことに
エレンは私以外と遊ばなかった。なんでも私と揃えたがった。別に私は嫌ではなかった、私はエレンのお姉ちゃんでエレンは私の弟で私にとって守らなきゃいけない小さな命だったから


身体が痛いと上体を起こした私は何度目かの追い焚き終了を知らせる電子音に時間を確認し、隣で眠るエレンに鼻をすする。風邪ひいたとため息をついてシャワーをエレンの顔面目掛けて浴びせた

「ぶはっ!?」
「おはよう、エレン。」
「い、いきなり水かけることないだろ!」
「いきなり襲ってきた人が非常識に文句?」
「・・・あれは、だって、」
「うん、いいよ。もういい。お母さんが死んじゃって、悲しくて怖かったんだもんね?」

忘れるから忘れてねとエレンの頭を撫でた私の手をつかんで、そのオッドアイで睨みつけられる
恐怖を押し込めて笑って首を傾げた私に、エレンはごめんと泣きそうに顔を歪めた

「姉さんは、俺が嫌い?」
「大好きだよ!だって、私たちこんな不思議な目を持ち合った姉弟なんだから。特別な絆がきっとあるんだよ。」

エレンに襲われる瞬間まで確信していた想いは、もう嘘だ。今はこれが、呪いのように思える

「・・・***だけだ。」
「え?」
「俺は***しか見ないから、***も俺だけを見てほしい。」

強くキツく捕まれた腕は、振り解けも振り払えもできなかった

私には、あなたを止める術がない



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