真実とは限らない *


「父(とと)さまッ・・・!!」

大きな背をいくらどかそうとしても、その背は退いてくれない。絶叫に近く悲鳴をあげ、そして舞う血に涙を流し続ける
ぼくならいくらでもひどくしていいから、だから父さまだけは!その叫びに昆奈門は笑みを浮かべるだけだ

「***。」
「父さまっ、」
「お前は、私たちの」

そして落ちた首に、幼い心は無惨に引き裂かれる。当たり前のように次は幼子の番、振り上げられた刀に幼子は・・・

「ひゅっ・・・」
「・・・思い出しちゃった?」
「っ、あ、あ・・・あああ・・・っ!!」

自分の腕から抜け出し着の身着のまま雪の降る外へ飛び出した***を、昆奈門は同じように着の身着のまま追う
近くの公園で雪の積もった地面に座り空をみる***は、今にも泣き出しそうな顔を昆奈門に向け口を小さく開いた

「父さまが、なにをしたというのですか。」
「君を私にくれなかった。」
「っ、そんな、そんな理由で、」
「君を一目みた瞬間、私は生きる世界の素晴らしさを知った。だから、君がほしかった。」

世界からまた色が無くなるくらいなら、いくら恨まれようがかまわなかった。そう笑う昆奈門から逃げるように、***は立ち上がり走る
行く先も宛もなく、***は初めて走っていた。歩くことすら阻止され発達しない筋力ではたかがしれていても、***は走った

「父さまっ、父さまぁっ、」

どこで生まれ誰に産み落とされたかも知らぬ***は息が詰まるほどに愛に囲まれ囲われた今までと目の前で父の首を落とした昔を並べ、泣く
泣いて泣いて泣いて泣いて、そして、涙が枯れた頃に後ろから抱きすくめられ引き寄せられた

「はなしっ、て」
「そのまま、私を憎んで何も思い出してはいけないよ。」

父さまをお前が殺した正気ではない母さまの分まで愛してくれた唯一の家族を、お前が殺した!父との美しい記憶だけを取り戻した***は昆奈門を責め、そして泣き声を漏らす

「きらいきらいだいきらい父さまをかえしてっ、」
「無理だよ。二度と、あいつに君は渡さない。」
「やだっ、父さまがいい父さまぁっ・・・!う、ううぅっ、ひっく、やだよぉ・・・だ、いすきっ、だった、のに!」

歳よりうんと小柄で細く弱々しい***を抱き上げた昆奈門は、だいきらいと睨んでくる姿にそれでいいと笑みを浮かべた





真実とは限らない





「息子をなんだと思っているんだい?」
「あれは私だ。私が果たせなかったすべてを手に入れる、次の私だ。」
「お前、まだ懲りてなかったのか。子は親の玩具じゃないんだよ?そうやってぽろぽろ作っては殺して、あの子で何人目だっけ?奥方はもう夢か現かわからないそうじゃないか。」
「あの子こそ私が求めた私たちだ。不吉と虐げられた私たち双子の、あの子こそ結晶だ。」

どうしてそんな考えしかもてないの。そう悲しげに呟いた昆奈門は、自分の愛した幼子の一挙一動を制御し個性を塗り替えていく友が壊れているのだと理解していた

「復讐が始まるぞ昆奈門!私たちを虐げ追いやり殺そうとした奴らへの復讐が!!」

最初からどこにも、昆奈門が気を許した友など存在しなかったのだと。悟るより他、目の前で毒を吐く友を理解する術は存在しない
もうすぐあの愛らしい幼子は自分の所業を理解し、歪みは訂正される訳はなく育まれるのだろうか。昆奈門には我慢ならず、その手をつかんだ

「・・・とめる気か、昆奈門。」
「とめるよ。あの子のためにも、お前のためにも。」

そうして交わった刃は、愛した幼子の目の前で父さまと慕われる友の首をはねた。その手は止まらず、友と同じ色を灯した似すぎる形相の、その首を落とす
来世ではどうか、幸せに。叶うなら、私のそばにと身勝手に願いながら



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