彼女と彼 *


二時間という限られた時間の中でホラーと銘打った異常性愛が繰り広げられる。夕方近くから見始めたそれは日が沈むに合わせるように残虐性と狂気を増し、赤黒く主人公を染め上げていった
精神を蝕ませ肉体を病ませた主人公は自分のテリトリーへと少女を誘い、恐怖というキッカケで皮の剥がれたありのままの少女に舌なめずりをする。愛しい愛しいと目が訴え、斧を持つ手が汗ばんだ

「見つからないで・・・逃げ延びて!」

叫ぶように呟いた***を、雑渡はクツクツと笑ってその普通の感性ごと見つめる
笑い声が聞こえたのか、ごめんなさいと謝り伺ってくるその目を舐めたいと思ったのは出逢った一発目だったはずだ。雑渡は優しげに目を細め、ちらとテレビへ目を移す

「いや、大丈夫だよ。ほら観てないとヒロインが。」
「え?あぁっ・・・!」

物陰に隠れていた少女を見つめた主人公はまるでそこに居ることが分かっているかのように、グシグシと靴を踏みならしながら物陰からぬぅと少女へと顔を覗かせた
かわされるために振り上ろした斧から血が散り、叩きつけられた床を割る。ぞくりと、雑渡の肌に鳥肌がたった
その切れ味の悪い斧が少女の肢体を変形させる様を、早く見たくて仕方ない。つきまとう主人公から少女は逃げることしか頭にない、幼くすら見える様子で躓きながらも走り続ける。もうすぐ女性となる少女は、その身体が完成する前に殻を割られ貪られるのだろうか?自分と***とに置き換えた雑渡は少女の悲鳴を聞く主人公に同調し、舌なめずりをした

「あっ!そこはダメ!」

壁に掛かっている絵画は主人公の好きなものが詰まっている部屋の前に掲げてあったもの。駆け込んだ先の淀んだ空気に鼻と口を覆った少女は錆のみられる鎖が重く沈む落としきれない血の染みだらけのベッドに息をのむ
剥き出しの電球が暖かみを与えるはずのオレンジで部屋中をぼんやりと浮かび上がらせると、カメラは少女の視線と合致して床へと向けられた

「う゛っ、」

***の呻きが少女の歪んだ目と一致する。部屋から出たいが目を反らせず下がる少女の背後でバタンとドアが閉まった
少女の悲鳴を象る口から出たかのような***の悲鳴が、雑渡の脳を揺さぶる。ぶるりと震えて、あのガラクタのような斧が少女の腕を奪う姿に食い入った

「ど、どうしよう雑渡さん!」

しがみついてきた***に首を傾げた雑渡が振り向く前に、***は少女が今にも殺されそうな場面を見ながら声をあげる。少女が、犯人のベッドへと押さえつけられ捕らえられたのだ
必死の形相で喚き散らす少女の血をべろりと舐めた主人公はその味に表情を緩め、服をはぎ取り産まれたままの姿を見下ろす。隣では***が口を覆い微かに首を振っていて、雑渡はそうだねと少女に宛がわれた斧を見つめた
斧は皮膚を押し肉を潰して内臓をすり潰して骨を砕き皮膚は耐えきれず千切れる。溢れた血肉に触れた主人公は白目を剥きだらりと舌を出したこの世のものとは思えない形相の少女をみながら、ぐちゅぐちゅと中身をかき混ぜ恍惚と笑った

「デッドエンドだったね。」
「ホ、ホラーじゃないっ!猟奇殺人だよこの映画!」

先に書いといてよとレンタルショップで読んだあらすじを思い出し寒そうに腕をさする***に、恋愛ものじゃないかなと、雑渡は思わず口にだす
強く瞬きをして自分をみる***にエンドロールから目を離さずお茶を一口含み潤いを持たせた雑渡は、半目でちらと日の落ちた外を見た

「彼は彼女をたっぷりの恐怖で追い詰め常識の範囲外である自分の屋敷内で追い立て部屋に誘導して異常性に彼女の心を蝕ませた。最後は最期の刹那までの、剥き出しにされた彼女自身である嘘偽りない感情を堪能しながら女である下半身と人間である上半身を切り離したでしょ?」

雌といいたかったのを我慢した雑渡から、***は微かに離れる。引かれようが誤魔化す気はなく、抑えきれないように想像だけで反応する下半身に***が欲しくて欲しくて溜まらなくなる

「下は本能上は理性。切り離してそれぞれを適切に、愛したいんだろうね。」

愛しくて愛しくて仕方ないんだろうね。そう言いながら自分を見る雑渡に足の裏から頭の天辺までを余すところなく震えが支配したまま、***はこの映画のせいで雑渡のスイッチがはいったことだけを理解した

「周りの手足のないダルマは彼が好意を寄せ縛り付けた女達。でも彼女にそうはできなかった。彼は、彼女を愛していたんだ。」

最初から最後まで一言も発することなく、表情や動きのみで愛を訴えた主人公は、少女を愛した。なぜわからないのかと***に手をのばせば、それは寸ででかわされ***の手が電気のスイッチを押す
真っ白な光が部屋を照らし、雑渡は***の背後に歩み寄りながらそっと壁に手をついた

「ッ!」
「彼女をその他大勢と一緒になんて出来なかったし、彼は彼女に最上級で想いを伝えるべく役割を切り離した。」
「ざ、雑渡さんっ、もう、もういいですから!」

悲鳴混じりに拒否をする***は危険を察知しているのだろう、雑渡をみあげながら怯えている

「彼女の全てを暴いて奪いたかったんじゃ、ないかな。」

雑渡の言葉を考えないようにするためにそらした目が反応している下半身を掠め、若干の羞恥で***は顔ごと床へと向けた

「私が怖いんだね。」

あっ、と顔をあげた***の震えも怯えも恐れも戸惑いも、テレビの中で訳も分からず求愛を受けていた少女と瓜二つ。その目には、赦しを乞う色だけが揺らめいていた




彼女と彼




「やぁああっ!」

イイところもイマイチなところも、***の身体なら隅々まで熟知していればまた開発したのも雑渡だ。ただ気持ちいいだけでイケないように工夫して責め立てれば、***の口からは絶えず嬌声が漏れとろけた中が早くもっと気持ちいいのをと乞う
だらしなく涎を垂らす***の目は虚ろに時折壁にある時計を見て、時間が経つごとに終わりなどないのではと絶望が滲むのだ

「ひっ、ぁ、あ!う゛ゥぅっ!」

真っ赤に腫れ上がるのは何も泣き腫らした目だけではない。縛られた両腕は抵抗の記しを柔らかい肉に刻み、手首の骨に当たり擦り切れる皮膚から紐へ血が滲んでいた
腕をつかみベッドへ埋もれる顔を引き上げれば痛みに呻き喉から掠れた息を吐き出す。興奮材料を絶え間なく与えてくれる***は、終わりを自分で先延ばしにしているのだ

「い゛っ!!」

イケずに苦しむ中はだらだらと粘液を吐き出し、雑渡はそろそろかなと痣を作るつもりで抵抗などもうできない***の腰をつかむ
奥深くに簡単に埋まり抉る凶器は、強烈な快感で***の脳を貫く。突き抜けた快感に中はもっともっとと収縮し、***の身体が悦びに悶えた
脳がとろけたかのような***に笑みを漏らせば、***の喉が引きつり小さく首が振られる。それを無視した雑渡は、快楽が苦痛に変わるまで何度も昇らせては緩やかに逃し***が乞うても女を引き出すだけ引き出しプライドや理性を悉く無視し続けた

「彼より私はヒドイと思うよ?彼女は二時間に詰められた数日だけど、***はこれからずぅっと、生き地獄だからね。」

あの映画、失敗だったね。正体不明になっていそうな***に笑いかければ、重なり束ねられたままの手をかきむしりガチガチと歯を当てながら達する
突然のストレスと過度の快楽に微睡んだ意識は、***の瞼をゆっくりと落としていった




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