彼と彼女 *


目の前で夕焼け同様赤く染まるテレビの中。殺戮が繰り広げられる映像にごくりと唾を飲み込んだ***は、隠れて怯えているヒロインに手に汗を握る
見つからないで、逃げ延びて!呟いた***を、雑渡がクツクツと笑ってみていた

「あ、ごめんなさい。うるさかったですか?」
「いや、大丈夫だよ。ほら観てないとヒロインが。」
「え?あぁっ・・・!」

物陰に隠れていたヒロインが、殺人鬼に見つかってしまう。振り上げられた斧は血まみれで、殺人鬼も血まみれだ。まるで赤い衣装を纏っているように
ヒロインは悲鳴をあげ背を向けて逃げる。逃げて、逃げて、沢山の角を曲がり出口を探す屋敷の中、ゆっくりとした足音がつかず離れずヒロインについて回っていた

「あっ!そこはダメ!」

壁に掛かっている絵画は冒頭で殺人鬼が出てきた部屋の前に飾ってあったもの。開け放たれたドアの中には薄汚れた染みだらけのベッドがあり、ヘッドの柵から鎖がのびている。あとは剥き出しの電球とテレビ越しにも鼻を覆ってしまう異臭発生源の生きていたであろうダルマ達が床に転がっていて、ヒロインは絶句して部屋から後退りその背後で派手な音でドアが閉められた

「きゃっ!」

バタン!大きな音にヒロインは跳ね上がって振り返り、振り下ろされた斧で腕を切り離されてしまう。ダルマの上に落ちた腕はただでさえ汚い部屋で新旧分からず汚れに混じった

「ど、どうしよう雑渡さん!」
「ん?なにが?」
「ヒロインが殺され、キャァ!?」

陶器のように白くなり震え上がって声を無くしたヒロインは出血する腕を抑えながら、抱え上げられ泣き喚く。声もなく泣き喚くヒロインに涙を流しながら青ざめる姿に、雑渡は可愛いねと目を細めた

「ひ、ひどい・・・!」
「そうだね。」

鎖に繋がれたヒロインがもう逃げられないことに安心した殺人鬼は、ヒロインの服を剥ぎ斧で潰し切るように腹部へ刃を宛がう。舌を出し目玉をひん剥いて暴れるヒロインの腹は無惨にも押し切られ、殺人鬼は嬉しそうにその腹をかき混ぜ悦に浸った

「・・・デッドエンドだったね。」
「ホ、ホラーじゃない、猟奇殺人だよこの映画!」
「恋愛ものじゃないかな。」

瞬きを一度、自分をみる***に対してエンドロールを見続ける雑渡は、ソファーの肘掛けに凭れるように肘を乗せ半目でお茶を一口飲む

「だってさ、彼は彼女をたっぷりの恐怖で追い詰め常識の範囲外である自分の屋敷内で追い立て部屋に誘導して異常性に彼女の心を蝕ませた。最後は最期の刹那までの、剥き出しにされた彼女自身である嘘偽りない感情を堪能しながら女である下半身と人間である上半身を切り離したでしょ?」
「おん、な?」
「下は本能上は理性。切り離してそれぞれを適切に愛したいんだろうね。」

熱中していたせいか、外はもう暗い。同じように真っ暗な画面に青白く制作に関わった人名が流れていく。その光に照らされる顔が自分を見れば、***はまるでヒロインになったかのように足先から震えという形で這い上がる恐怖に身を竦ませた

「周りの手足のないダルマは彼が好意を寄せ縛り付けた女達。でも彼女にそうはできなかった。彼は、彼女を愛していたんだ。」

最初から最後まで一言も発することなく幕を閉じさせた殺人鬼の思考をつらつら吐き出す雑渡に、***はソファーから立ち上がり電気つけますねと壁へ寄る
パチンと入ったスイッチで蛍光灯が室内を照らし、壁に向かう***を影が覆った

「ッ!」
「彼女をその他大勢と一緒になんて出来なかったし、彼は彼女に最上級で想いを伝えるべく役割を切り離した。」
「ざ、雑渡さんっ、もう、もういいですから!」
「彼女の全てを暴いて奪いたかったんじゃ、ないかな。」

振り向いた***は壁に追い詰められる結果となり、雑渡を見上げてもう言わないでと首を振る。
昼に作って食べたカルボナーラがせり上がってくるようで、***の目が雑渡からそれ顔は下を向いてしまった

「・・・そう。」

私が怖いんだね。呟きに勢いよく顔をあげた***の目に、テレビの中で黙々と狂気を発揮していた殺人鬼と同じ目の男が飛び込んだ




彼と彼女




「ひっ、ぁ、あ!う゛ゥぅっ!」

やだを言う度に与えられる精に終わりが見えない***の目は真っ赤に腫れ上がり、縛られた両腕を引っ張られ顔がベッドから剥がれる。肩に体重が乗り痛みに呻いた***は乱暴なだけの行為に鳴いて泣くことしかできない

「い゛っ!!」

性差はもちろん身長差で***の抵抗など簡単にねじ伏せられてしまう雑渡の手が柔い腰をつかみ、手を離されシーツに顔を埋めた***の身体を揺すりだす
熟知されている身体に快楽だけを与え始めた雑渡に中が締まり締め付け、あっさりと突き抜けるような快感に身悶えした。ははっと小さく漏れた笑みに***は引きつり、達したばかりの身体が悲鳴をあげ辛く苦しくなるまで蹂躙される

「彼より私はヒドイと思うよ?彼女は二時間に詰められた数日だけど、***はこれからずぅっと、生き地獄だからね。」

あの映画、失敗だったね。喉を鳴らす笑い声を聞きながら、***は微睡む意識の波に流され沈んでいった




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