ゆっくり *


「あっさり」の続き



嗅覚鋭く視覚広範囲、聴覚は風さえ聞き分け触覚は産毛の先まで行き渡る。そして、味覚は戦闘能力と比例するように異常である
同じ陣営に属そうが人は彼女を化け物と畏怖し、始末を企てれば悲しいかな彼女に弄ばれ胃へと招かれた

「ねぇねぇミディアム。」
「・・・みでぃあむ?」
「ミディアム。ウェルダンとレアの間。中は生で外が焼けてるおいしいお肉の焼き加減。」
「私の火傷を揶揄してる?」

事実でしょと笑いながらぐにゃぐにゃになった刀を捨てた***は、失禁しながらあわあわ逃げる少年を踏みつけ髪をつかんで頭を首から引きちぎる
あーんと鮮血を口に垂らしたあと気紛れに目玉をポケットにしまい頬を食べて、脳みそは掻き出され啜られた

感覚の麻痺か、昆奈門は人間だった残骸が捨てられるのを見ながら、ご満悦の***から目をそらす

「別に、退屈だろう鍛錬につき合わなくていいんだよ。」
「甚兵衛が風邪ひいてるから暇なの。リハビリ見学させてよー。」
「・・・はぁ。」

ぱっと顔をあげた***がタソガレドキの方面を向き、ぎょろりと赤目でそちらを見つめる。次の瞬間に姿はなく、昆奈門はまだ半端にしか走れぬ自分を恨みながら城へと走った
いつ見ても、血色の目は微かに足を竦ませ鳥肌をたたせる

昆奈門が城へついたころ、城は内外共に騒然としていた。曲者があちこちで忍者隊に捉えられ、城の中へ入った昆奈門は山本に連れられ甚兵衛の部屋まで一直線に走る
山本も苦戦したのだろう、そこかしこに傷を負い昆奈門のいない穴を補填する日々で疲労はピークに達しているようだ

甚兵衛の部屋の戸は開け放たれており、そこから数人の曲者と護衛が我先にと飛び出す。思わず足を止めた昆奈門と山本は部屋の中から何かがその全員に鋭く突き刺さるのを目撃した

「私の食料供給源に手ーだすなって。」

中からでてきた***の背から禍々しい翼が生え、それが羽ばたけば羽が鋭い刃となり呻く奴らの息の根を止めた

「ねぇ甚兵衛、間違えてこの城の人間も殺しちゃった。食べていーい?」
「・・・お主は変わらず美しいな。」

ぽつりと血の海に落ちた甚兵衛の言葉に昆奈門と山本は驚き、***は先程ポケットにいれた目玉とついさっき息の根を止めた死体から目玉を取り出し、甚兵衛の前に連ねておく

「食べていーい?」
「構わん。儂がなんとかしよう。」
「ふふっ、甚兵衛だぁいすき。」

いただきまぁすと美味しそうに人間を喰らう姿に慣れはじめた自分を感じ、昆奈門は甚兵衛にお裾分けをしようとする***を見ながらため息をついた




ゆっくり




「ねぇ甚兵衛、甚兵衛は私がこわくないの?」
「お主は儂が出逢ったどのおなごより美しい。」

えーと照れながら笑う***は、こちらに来てからは珍しい薄い茶色の目玉を血濡れの手で抉りありがとうと甚兵衛に差し出す
受け取った甚兵衛はお主が食べたいのではないかと、それをころりと***の手のひらに乗せた

「・・・甚兵衛優しいねー。」
「お主にだけじゃ。」
「ほぇー・・・」




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