凶となるか


出会いは吉か 続き


目を開けてすぐ、反対側の壁に寄りかかってる大男に自然と身体が震え、ストールで首を器用にのっけられたクマに抱えられるように寝かされていた私は、クマに抱きつきながらキョロキョロと部屋を見回す
ゆっくりと目を開けた大男が動いて、私の頭にさっきの恐怖体験が蘇った

「ぃやっ!いや来ないでやめて!!」

ティッシュボックスを投げてクッションを投げてカーディガンを投げる。それを全部避けた大男が体制を直すようにまた壁に寄りかかると、投げるものがなくなった私に終わり?と首を傾げた
悔しくて怖くてたまらない私は、なんでか開いてる窓を見てから出てってよと叫ぶ

「君が気絶してる間に少し見て回ったんだけどね、ここは私の知らないもので溢れていたよ。」
「い、意味わかんな、」
「そうだね、まずは謝罪からかな。」
「っ、」

一歩踏み出した大男と、クマの背に隠れる私。大男は、これ以上近づかないよと正座して、頭を下げた
なに?とよけい引いた私は、後頭部を壁につけながら逃げ道を探す

「乱暴をしたことを謝りたい。すまなかった。」
「・・・な、んで、なにっ、いらない!謝罪なんていらないから出てってよっ!」
「私を、ここに置いてほしい。」

ココニオイテホシイって何語?日本語喋ってくれないとわからない、わかりたくない
なんで、私が、この大男を家にいさせるの意味不明。だってそうでしょ!?

混乱したまま嫌、やだ、無理、出てってと繰り返す私に他に頼れる人がいないという大男。ホームレスなの?なんなの?とひたすら首をふる私に悲しそうに目を伏せた大男は、君に見捨てられたら生きる道がないなんてひどいこという
そんな言い方!私がいやだって言い続けることが悪く感じる言い方だ

「こ、怖いからっ、いやっ、」
「私の君への行動は間違っていた。」
「帰ってよっ!」
「帰る場所がない。」

二十歳を越えたら大人。あの子たちと年も近いんだから、ね?そうやって押し付けられた義務教育中の遠縁の姉妹は、どうせ帰る場所なんてないから私たちは言われた通りにするだけだと諦めて互いの手を強く握っていた
私は見捨てることが出来ずに使い込まれて大幅に減った姉妹の親の保険金を全部姉妹に渡して、保証人になって部屋を借りてあげた。家賃はちゃんと払うから二人きりになりたいという願いのままに
本当に嬉しそうに、これからずっと一緒だね、誰も私たちの邪魔をしないねと笑ってありがとうを言ってきた姉妹に、お礼にと渡されたお金を家賃先払いの形で使ってあとは向こうからのコンタクト以外干渉していない

同じような状況だと、ふと思う。頼りがいなくて自由になるお金もない、居場所もないまま誰かの好意に頭を下げるしかない姉妹と、目の前の大男は同じようだと、ぼんやり

「・・・わ、私、でも、こわいっ、」
「なんでもするよ。君が望むならなんでも。だから、どうか、私をここにおいてほしい。」

このとおりと床におでこをつけて深く頭を下げた大男は、私が一週間だけならと言った瞬間に頭を勢いよくあげて感謝するとまた頭をさげた

「私は雑渡昆奈門。格好見ればわかるとは思うけど、忍びだよ。」
「・・・・・・え、うん。」


あ、私電波拾っちゃったんだ。と思ったのは、もう、仕方ないことだと思う





凶となるか





服、サイズない、から。そう言いながら私に決して目を向けない女は、浴衣もあわないよねと紺色に紫陽花が数輪咲く着物を取り出してしまい直し、買ってくるから、逃げませんからと私に言い訳ばかりして奇妙な袋をつかむ
こんびに行くからさいず教えてという女にわからないと言えば、服は明日買ってくるからと女にはどう考えても大きな奇妙な着物を取り出してこれ、上だけでもとギリギリ手が届くかどうかの距離に差し出された

「お、大きめの買いたくて、L、買ったら、外国サイズで、着れなくて、」
「・・・どう着るのか、きいてもいい?」
「・・・こうやって。」

おなじような着物を被って腕を通した女は、てぃーしゃつだけど、ないよりはと透明な戸を閉めてしゃしゃっと布で隠す

「私、仕事あるので、家にいてください・・・冷蔵庫のは好きなように食べていいので。」

お米もどうぞと新しい着物を持った女は、お風呂いきますからとぱたぱたと部屋から出て行った

「・・・てぃーしゃつ、ねぇ。」

忍装束の上からは着れないので上衣を脱ごうとして、ぱらぱらと汚れが床に落ちる
流石に水浴びかなにかしないと汚いし包帯も替えないと膿んでしまう。でも居候の身で怖がらせてる手前言えず、女が小さな固紙の手帳やら印やらを袋につめて家から出るのを見送り
鍋だと思われるものに家漁りでなんとなく覚えた水を張り、女がなにやら水の音をさせていたまだ温かさの残る部屋で包帯を解き水を被った。何度も、水場が近いことにありがたく思いつつ
流れていく汚れをみながら、自分を呼び手を伸ばす部下たちの顔が浮かんでは消えていく
包帯をまた身体に巻ながら、いっそ夢であるならと殿を思い浮かべてどうにも行き場のない感情をため息として吐き出した



情が移ってから へ続く


(25/79)
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