逃亡阻止!







「好きだ。」

「えぇ?」


決してこっちを見ない三郎くんは、今なんと言ったのかな?

聞き間違いじゃなかったら、それは告白だったんだけど


「だから、***が好きなんだ。でも***が雷蔵のことを好きなのは知ってるし、雷蔵は***のことが好きだ。」

「・・・あの、」

「断られるのはわかってる。だから何も言わなくていい。」

「いや、三郎くんはなにか勘違いを」

「自己満足でもいいから言いたかっただけだ。忘れてくれ。」


そう言って逃げるように去っていった三郎くんを眺めたのは、丁度一週間前


時計は五時をまわり
教室には日誌を綴る音だけが寂しく鳴って


それを破ったのは、教室の戸が開く音だった


教室につかつかと入ってきたのは、友達の雷蔵くんの友達の三郎くん


「おい。」

「はい?」

「何してるんだ。」

「・・・日誌を書いてるの。」

「日直は明日私とだろ。」

「そうだね。」

「しかも何でこんな時間にそんなことしてるんだ。」

「美術室の掃除を代わったの。」

「昨日も一昨日も一昨々日も、なんで断らないんだ。」

「この時間に三郎くんが教室に必ずくるからだよ。」

「・・・それは、お前がいつもこんな時間まで一人でいるからだ。早く帰るぞ。」


夕陽の沈みかけた教室で、私は日誌を閉じて席を立つ


「私ね、好きな人がいるんだ。」


帰る支度をしながら言う私と、視界の端でぐっと拳をつくった三郎くん


「わざわざ言うことか。しかも私に。」

「うん。」


三郎くん気づいてた?

一昨々日は、まだ教室に他に数人人がいたんだよ?

で、一昨日は二人、昨日は一人、今日は私たちだけ

時間も少しずつ遅らせて、ほら、もう日は沈んじゃった


こうすれば、私を一人にして帰れない三郎くんは絶対逃げられないって

雷蔵くんが教えてくれたんだ


「私ね、」

「言わなくていい。知ってるって言っ」

「何を知ってるの?雷蔵くんは友達だよ?」

「は?いや、だから、両想いなんだからすぐ恋仲に」

「なれないよ。雷蔵くんは友達だから、付き合わない。」

「・・・じゃあ誰だ?兵助か?勘右衛門か?あ、八左」

「三郎くんだよ。」


キョトンとした三郎くんに一歩ずつ近づいて

緩んでもまだ拳の形の手をそっとつかんでひらいていく


「三郎くんが好きなんだ。ね。知らないでしょ?」

「・・・でも、この前はそんなこと」

「三郎くんが逃げたんじゃない。」

「だって・・・お前が私なんかを好きになるなんて、」

「私は三郎くんが好きなの。ダメなの?」

「・・・ダメ、じゃない。」

「よかった。じゃぁ三郎くん。」


深呼吸して、笑った


「好きです。付き合って下さい。」

「・・・な!う、あ・・・は、はい。」


かぁっと赤くなった三郎くんは、どもりながらも了承してくれました


逃亡阻止!


「雷蔵くーん!!昨日上手くいったよ、ありがとう!で、これお礼のシフォンケーキ。」

「よかった、気になってたんだ。シフォンケーキありがとね。***の手作りって美味しいんだよね!」

「ありがとう!」

「私にはないのか?」


ずっと雷蔵くんの隣で黙ってた三郎くんが痺れをきらしたから

私と雷蔵くんは見合って笑う


「言ったとおりでしょ?」

「うん。流石雷蔵くん。」

「な、なんなんだよ。」

「雷蔵くんだけに渡すと、三郎くんが拗ねるって。」


拗ねてない!と声をあげた三郎くんにもシフォンケーキをあげれば

三郎くんは私を軽く睨みながらうけっとってくれました








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