何年越しの




「***ちゃん、だーいすきだよ。」
「ありがとー!あたしも、せんちゃんだーいすきっ!」
「ほんと?うれしいなぁ・・・」
「あたしもうれしー。」
「ぼく、ずっと***ちゃんを守ってあげるからね。」
「わーい!やくそくだよ!」

懐かしい夢で目を覚ました。せんちゃん、***ちゃん、そう呼び合っていたのはいつ頃までだったか忘れてしまった
産院から、いや母親同士が幼なじみのころからの縁だから長いけれど、最後に会ったのは小学校三年のとき
高学年になって私は時間外部活で忙しくなり、母だけは年に一週間ほどせんちゃんのお父さんの赴任先に泊まりに行ってるけど、私は部活に没頭してついて行くのをやめていた

「お母さん。」
「なぁに?」
「・・・立花さん、元気?」
「元気よぉ・・・あ、仙くん夏休みに泊まりにくるから。」
「・・・え?」

夏休みっていつよ、今日からじゃん!と騒ぐ私にお母さんはきょとん、お父さんが迎えに行ってるからと笑った。意味分からなくて呆けたままの私はマジで!?を脳内に旋回させたまま自室へ戻ると、のそのそと着替えてため息をつく
そのまま身だしなみを整え、行ってきますと予定通り友達との待ち合わせに向かったのだった

『ごっめーん!補習の日忘れてて担任から電話きてさぁ、今学校なんだ!』
「先に行ってよ・・・」
『夏休みも勉強とかショックすぎて忘れてた。』
「宿題は?ねぇ宿題やる気は?」
『ない!』

だから補習受けるような成績とるんだよと文句をたれ、面目ないと笑いまくってる友達に殺意わかないうちにと電話をきって、入道雲が立派な夏の空を見上げる
折角だから買い物して帰ろうかと駅ビルに入り、海やプールには無縁のくせに水着売り場を物色
か、かわいい・・・!ってなったワンピ型の水着を衝動買い。後悔はしていないが使い道はない

そのまま駅ビル内で本やアクセサリーを買って財布が軽くなってからビルからでたけど、外は今にもふりだしそうな雲行き
さっさと帰ろうとバスに乗り込めば、途端に土砂降り。思わず口の端がひくつくほどのゲリラ豪雨に心配したのか、お母さんから大丈夫?メールが
バス乗ったし折りたたみ傘あるから平気と返して外をみれば、雷まで鳴り始めてあー・・・と情けない声まで出てしまう
最寄りのバス停付近は雨宿りもできなくて、折りたたみ傘を広げてバス停から慎重に歩いてみた

「ええー・・・」

けど、地面からの跳ね返りはひどいわ傘から落ちる雨は水道の蛇口ひねったようだわで足元が大惨事
へこむ。ととぼとぼ足になった私は、いきなり誰かにぶつかられてよろけてしまった

「っ、ごめんなさい、」
「無事か?」
「え?」

何が?と顔を上げれば、見知らぬ同じ年くらいの男の子。その子が何か言おうとしたときに、乗用車が激しく水しぶきを浴びせかけてくる
足元だけでなく殆どが大惨事になりかけた(男の子が殆ど被った。悲惨。)私は少しぽかんとして、なんなのあの車と呟いた

「結局濡れさせてしまったか。」
「はい?え、あ、大丈夫?」
「問題ない。」

それより早く帰ろうと手をつかまれ、はぁ?と怪訝な顔をした私は、ぶつかられたときのようにぐっと歩道の奥へ押しやられた
なんなの!?と文句を言おうとすれば、さっきみたいに乗用車が盛大に水を男の子にかぶせていってしまう
あれ、まさかぶつかられたときも庇ってくれたの?と慌ててお礼を言えば、あまり意味はなかったがなと手を引かれた

「それに、まあ自己満足の範疇だが約束を破らずにすんで安心した。」
「約束?」
「したじゃないか、ずっと守ると。」
「・・・立花、くん?」

きょとんてした顔で振り向いてなんだそれはと軽く首を傾げる姿はイケメンです。胃もたれする
別にもう雨で不快指数振り切れそうだから、びしょ濡れになったっていいよ、もう。でも、立花くんの惨事を前には口が裂けても言えない

「仙ちゃんと呼んでいたではないか。」
「・・・いつの話よ。」
「さあな、昨日のことのように思い出せるが。」
「ああ、うん、頭おかしいね。」
「私は至って正常だ。ほら、帰るぞ。おばさんが心配している。」

まあ帰るしか選択肢ないもんねと頷いて手を握られて握り返せば、立花くんは昔のように幼く笑った




何年越しの




「頭いたーい・・・」
「39.5。今日は1日ゆっくり寝て休みなさいよぉ?」
「はーい。」

仙くんが今お粥作ってるからと微笑むお母さんになんで?と聞けば、お母さんは心配で何かしたいっていうのよぉ、可愛らしいわねぇと笑って部屋から出て行く
入れ違いで部屋へ入ってきた立花くんは氷枕と一人用の土鍋をサイドテーブルにおくと、辛いか?と私の頭を撫でる
ちょっとねと顔を逸らす私に治ったらデートに出ようと真面目な顔で提案した立花くんは、ほかっと湯気のでるお粥ね上澄みをふーふーして私にくれた

「・・・ありがとう。」
「固形が食べられるようなら米もいれるが、どうだ?」
「いらない。汁だけでいい。」

甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる立花くんは、早く元気になってくれと私の頬にキスをした



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