BL
夢主の性格に難あり
これじゃないんだってば。そう穏やかな声と共に床へとぼとぼと落とされる料理を、作った本人である仙蔵は茫然と眺めるだけ
朝食を作ってと言われたのはもう半日も前だ、その間水も薬も飲んでいない。作ってはダメ出しを繰り返す恋人に、仙蔵はどうすれば気に入ってもらえるのか考えすぎて頭が痛い
「…なにが、食べたいんだ?」
「おいしいもの。」
「もっと具体的に言ってくれなければ、これ以上作りようがないのだが…」
べちゃっとスリッパで残骸を踏みつけながら数歩の距離の仙蔵へと近寄った恋人は、にこりと笑って仙蔵の髪を鷲掴み引き倒す
残骸で一気に汚れた自身に不快そうに眉を寄せた仙蔵は、軽く顔を上げたところで顎を下から蹴られてふらついた
「察してよ、仙蔵。」
「すまない、」
「だからイイ歳になっても友達一人いないんだよ、仙蔵には。」
ふらふらと身体を起こす仙蔵は目をおさえながら立ち上がると、片付けをすると言って雑巾をとりに
それに目を向けるでもなくキッチンへ立った***は残骸をせっせと片付ける仙蔵を尻目にコーヒーをいれはじめる。勿論二人分だ
「…***?」
「これ仙蔵の。早く片付けてね?冷めたら捨てるから。」
「!あ、ああ、わかった。」
分かり易く表情を明るくさせる仙蔵に穏やかに笑みを浮かべたまま、***はいれたてのコーヒーを躊躇いなく跪いて掃除をする仙蔵の頭上へとふらせる
熱っと短く悲鳴を上げる仙蔵の腹を蹴り上げ転がし噎せさせると、***はああまだ熱かったかとしゃがんだ
「冷めたかと思って、捨てちゃったよ。ごめんね?」
「っ、***っ、」
お詫びにこっちあげると口元に注がれたコーヒーに仙蔵は逃げようとするも、腹をおもいきり踏んで立ち上がった***のせいで吐いてしまう
胃液のツンとした臭いと空きっ腹へのコーヒー攻撃に涙目になった仙蔵に、***は汚いねときょとり
痛み止めが完全にきれて痛みに呻くように顔を抑えて起き上がる仙蔵の手を外し、脂汗を滲ませながらも抵抗せずぼんやりと見てくる姿ににこりと笑った
「醜いね。」
「…ぁ、」
毟るように弛んだ包帯とガーゼがとられ、目のすぐ下の爛れた皮膚とこめかみ付近にある抉れた皮膚が外気に触れる
ズクズクと痛むそれにふらついた仙蔵は、汚い傷。と呟かれて限界だと首を微かにふった
「ならっ、棄ててくれっ…」
こんな醜く使えぬ男をそばにおいて何になると泣き出す仙蔵は、人様の前にも出れず治らない傷を抱えて独り生きていけるほど強くはない
だから***から離れられないし、行く先だってないのだ
「***は、醜いものが嫌いじゃないか…っ、う、うぅっ、」
「泣かれるとそれが増すね。」
足を蹴られてよろけ、膝が鳩尾にはいりまた吐く
チカチカと目の前が光り***をよびかけてテーブルに寄りかかりながらうずくまる仙蔵は、髪を掴まれ引き寄せられた
「う゛っ、」
「泣き顔醜いよ…その傷と相まって鬱陶しさ満天。」
「っ、ぅ、」
「でも、仙蔵のことはなんでか好きなんだ。」
ぐしゃぐしゃの顔で***を見上げる仙蔵の額にキスを落とし、その身体を抱き上げて浴室へと向かう
「醜いものは嫌い。汚いのも嫌い。だから、仙蔵の顔半分はとても好きだよ。」
「***っ、」
「半分が嫌いでも、あとの半分は今まで会った誰よりも美しくて好きなんだ。ついうっかりヒドいことをしてしまうけれど、仙蔵を愛してはいるんだよ。」
わかる?今の仙蔵だって愛せるんだ。そう耳元で囁かれ、仙蔵はくらくらする意識で***の言葉をなんとか飲み込んだ
「私は、***のそばにいてもいいのか…?」
「他の誰が仙蔵を突き放して離れても変わらなかったでしょ?なにを今更。」
「***っ…!」
それは愛ではない
「ごめんね、蹴り過ぎちゃって。」
「いや、構わない。私が***の特別だという証だ。」
「そう。…仙蔵、愛してるよ。」
「ああ、私も***を愛している。」