果たしてどちらが * 上




「行きたくない、」

ガリ。と二の腕を引っ掻き、瘡蓋が剥がれる
痛みはない。それより、いっそ化膿して腕切断して感染症で死にたい散々苦しんで死んだら、来世は一切苦しまずに天寿を全うしたい

「学校嫌い、家も、嫌・・・」

ガッシャーンと食器類の割れる音が響いて、母さんが泣き叫んでる
***助けて、お父さんをどうにかしてと、叫んでる

「おいクソ餓鬼!!」
「・・・はい、」

ドンドンガチャガチャバキ!とドアが蹴破られて、朝から酔っ払ってる父さんが殴り込んできた
そのままネクタイをつかまれて締め上げられる
苦しくてぎゅっと目を瞑れば、頬に衝撃。吹っ飛ばされて床に打ち付けられれば、口からはぼたぼたと血が落ちた

「なんだその目は!育ててやってる親に感謝の一つもねぇのか!!」
「うるさい飲んだくれ。」

カッ!と目を見開いた父さんが思い切り私を踏みつける
何度も何度も。飽きもせず繰り返される暴力は、もう慣れた
怪我だらけで元より満足に動けない身体じゃ抵抗なんてできないから、せめて口だけでも

不意に軽やかなメロディーがインターホンから鳴って、私の胃がきゅうっとしまって吐きかけた
舌打ちをした父さんが私の髪の毛をつかんで引きずり、階段から放り投げる
ガタガタガタと手で庇った頭以外が問答無用で打ち付けられて、トドメに教科書が入ったバッグが落とされた。頭に

微かに呻くだけに留めてバッグを持つと、ネクタイを整えてハンカチで口周りの血を拭う
髪に櫛を通しながらローファーを履いて深呼吸。次の地獄へ進むためにドアを開いた
出来るだけ前髪で顔を隠し下を向きながら後ろ手にドアを閉めてすぐの門を開ければ、もう一度インターホンを押したままにっこりと笑みを向けてくる尾浜くんと久々知くんにああ、今日は先輩たちじゃなくてよかったと安堵する
先週の土曜日(私学だから土曜日あり)は七松先輩と中在家先輩だったから、道中車に轢かれかけた。七松先輩の最近のお気に入りは赤信号を走らせること
断ったり抵抗すると、腕を折られるから逆らわない(中在家先輩はただそこにいるだけって感じ。それは久々知くんも同じ。)

「おはよー***。」
「・・・おはよう。」
「元気がないのだ、大丈夫か?」
「っていうか、何、その髪。」

え?と門を半端に開けたまま固まる私に、尾浜くんは近づき髪をかきあげられる
自己治癒力と自己流の手当てしかされない私の怪我は、痕がバリバリ残って醜い
鉢屋くんなんかは大笑いしながらそれを抉ってくるから、しかも定規とかで、お陰で文房具が恐怖

「誰、これやったの。」
「それより勘ちゃん、善法寺先輩に早く診せよう。化膿してる。」

あ、そっちコースか。人の傷に唐辛子とか塗り込んでのたうち回るのを観てる善法寺先輩に連れてくのか
なんだ。と身構えたままはそうでも少し安心した私は、一瞬でも優しい言葉を掛けられたことによる吐き気を押さえることができた

大丈夫、いつも通りの一日が始まるだけ
暴力暴言で始まって暴力暴言で終わる。生傷を作るだけの、一日が




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