怪異ハ笑ウ *




助けてあげましょうか?

ふふ。と綺麗に笑う女人に、手をのばした




「さぶ、ろう・・・?」

ぼんやりとした意識の中で、不破雷蔵は状況を飲み込もうと必死に頭を働かせていた
目の前に映るのは木目の天井で、頬にはくすぐったい感覚

そして、全身を支配する倦怠感

「っ、あ・・・」

弛緩する四肢、開いていく瞳孔

「さぶ、ろ・・・さ、」

ずる、ゴト。と床に倒れた不破雷蔵を暫く見て、漸く、鉢屋三郎は意識を取り戻す

口元の不快感を拭えば赤がつく
見下ろせば、親友の姿が

「らい、ぞう・・・?らいぞう、」

自分はなにをしていたのだろう
自分はなにをしたのだろう
自分はどうして、こんなにも満ちているのだろう

「私、」
「美味しいでしょう?ふふ・・・」
「っ!」

勢いよく振り返れば、そこに在ったのはいつかの女人
青白い肌に真っ赤な唇、は虫類のような瞳孔と覗く白い歯

「怪異、」
「貴方もよ。」
「私、も・・・?」

自分の歯に触れ、手を見て、そして親友の首にある傷を見て

「貴方は生き続けるの。人間を喰らい続けて、親しい者に畏れられて。」
「なん、で、」
「だって、生きるのを望んだじゃない。」



怪異ハ笑ウ



「助けてあげましょうか?」

のばされ手を優しく取り、怪異は美しく笑った

怪異ハ笑ウ


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