「あら、今日も来たの?」
クスリと笑って、今日は何丁?と俺が差し出した大きなタッパーを受け取り
木綿二丁と書いてあるメモを渡して、***さんはおまけでお揚げもつけるわねといいながら、タッパーにずっしりとした滑らか食感の木綿豆腐をいれてくれた
「・・・今年で幾つになるの?」
「10、です。」
「時が経つのは早いのね・・・兵助くんがうちの店にお使いに来て5年になるわ。」
ある日、親に食パン一斤のおつかいを頼まれた帰り
大好きなのになぜか美味しく感じなかった豆腐の、専門店を見つけたのだ
中には綺麗なお姉さんがいて、俺をみて潤み、待ってたわとおぼろ豆腐を渡され
あえてよかったと抱きしめられ、俺はその日パニックで帰路につき
知らない人からもらったなんて怒られるから、こっそり付属の小さな容器にはいったタレをかけてもらった豆腐を食べた
あれから、ずっと、この店の豆腐が大好きで
豆腐料理が大好きで、このお姉さんが大好きなのだ
「俺、中学私立行くのだ。」
「理事長は大川さん?」
「えっ、う、うん・・・なんで知ってるのだ?」
「なんとなくよ。そう、なら、お別れね。」
え?と瞬いた瞬間に、夢から覚めた
それは突然に覚めて唐突に理解して、そして思い出す
「***・・・」
『元気ないのね、豆腐買ってきてあげましょうか?』
『元気だけど、豆腐はもらう。』
『ため息多いじゃない。すぐに豆腐買ってきてあげますから、じっとしてらして。』
『・・・こんな時間に?いいのだ、明日で。』
『いいえ。兵助には今すぐに豆腐が必要よ。』
「***っ、」
今日は丁度、14歳の誕生日
今日は丁度、忍務で失敗した日
今日は丁度、恋人を亡くした日
全て、数百年も前の、前世の話
人を沢山殺した俺が漸く生まれ変わった現世で、俺がこの歳まで思い出さなかった前世の話
「・・・待っててくれたのか。」
『***っ!************!!なんでっ、』
『兵助やめろ!兵助にも毒が』
『煩いっ!!***が毒で殺されたならっ、俺も毒で殺されるべきなのだ!』
豆腐を買いに行って、いつもの店にないからって更に足を進めて
それでその帰りに残党狩りに出くわして、巻き込まれて毒矢で射られた
ある意味、出来過ぎ
その後、残党の一人が危険を省みずに俺を探し出し、俺が***に贈った玉の指輪を返してくれた
『兵助、生きて。と、仰っていました。』
『***・・・っ!会いに行くから、絶対。だから、待っててほしいのだ!』
兵助が通いつめた豆腐屋は、今はもう存在しない
雑貨屋になり、***は消えた
それでも、いつかきっと会えると、確信がある
そして、
「・・・おじさん、邪魔。」
有名女子校の制服を着た少女の前に立ち、道を塞いだ30も半ばな男性は
整った顔を破顔させ、少女を抱きしめた
「ちょっ、」
「***、愛してるのだ。」
びくりと強ばり奇人変人をみる目つきの少女を離さずに男性は行こうと手をつなぐ
「・・・どこへ?」
「どこでもいい。***の行きたいところへ。」
変質者。と呟いた少女に、多分もっとたちが悪いと
男性はミスマッチな笑顔で呟き返した