子供は確かに死を願う *


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「餓鬼ながらにエロいよなぁ。」
「ヒッ、や、やめ、や、だ、やだ、たすけ、かあさまっ、」
「ちょっと、前金は?」

銭を受け取った母様は、ごゆっくり。と部屋から出て行く
ピシャリと閉められた戸を合図に、僕は売られたと自覚した


誰も、僕を守ってくれない
助けてって言葉は、無意味
嫌だもごめんなさいも、聞いてもらえなくて


「もう無理ね。」

何度も何度も銭に替えられた僕のお尻を指で広げて、それだけで声を出しちゃう僕を
母様は嘲るように笑って、棄てた


「い、や・・・かあさま、かあさまっ、」
「じゃあ確かに。」

銭少しと引き替えに、僕は気持ち悪く笑う男たちに売られた
もう、母様と会うことはないんだって、わかった

歯を食いしばる?唇を噛む?舌や汚いのを噛みきってやる?

抵抗なんて、ずっと昔にやめたよ
だって、もっと痛くされるから


「・・・子供、か?」

ある晩だった
僕は厠のそばにある厠並みの部屋で丸まって
用を足すかのように僕を使う人たちを待ってた

怖いとか悲しいとか苦しいとか
全部全部涙と一緒にバイバイしてたから

「おい、」

変わった臭いだなとは思ったけど、ぐちゃぐちゃでどろどろででろでろな僕より全然綺麗
ついでに言えば、僕を使う人たちより若かった

でも、あまり関係ない

自主的にしないと残飯も貰えないから
最初みたいに喉の奥にへばりつく臭いのか、僕厠じゃないのに、無理矢理流し込まれる尿が胃を満たすなんて嫌だから

「ンッ、ん、」
「やめるんだ。」

全然反応しないけど、僕は殴られたくないから
蹴られて、折角胃にはいったご飯が逃げてくなんて嫌だから
必死に、自由になる口で着物の上から強請った

「・・・お前、」

ギチッて、僕の手首から血が滴る
縄で縛られて吊されるみたいな僕の手首は、ずっとぐじゅぐじゅと血生臭い

あれ、この人も、血生臭い・・・?

「殺してやろうか?」
「?あ、う?」

ないほうがいいと殆どの歯が抜かれたせいで、言葉がでない
それでも、じわりじわりと理解して、頷いた

「そうか。」

縄が切られて、腕が下がる
じわじわと熱くなって痒くなる腕から縄がとかれると、手首は予想以上に生肉な感じで
続いて足が解放されて、部屋から出された

「・・・ひへい、」
「あ?」

きれい、だなぁ・・・この人

真っ暗で、星も見えない曇り空
それなのに、僕はこの人の姿をしっかりとみれた

「・・・名前は?」
「ほふ、はひはえほん、へす、」
「そうか。俺は***だ。」
「・・・あひ。」
「辛いことがあって、俺を思い出したなら、俺を呼べ。」
「・・・?」

スラリと刀が抜かれて、僕に振り下ろされた




「・・・***、さん。」

朝、泣きながら目が覚めた
すぐに、厠へ行って吐いた
そして、情けなく泣いた

俺は、人間じゃなかった
銭何文かで売られる人形
汚い奴らの精を受け止めて、請う人形


俺を人間にしてくれた恩人を、今まで忘れてた
この夢は、忘れていた記憶だ

優しいおばさんや、腕や足や目のないおじさんたちが優しくしてくれて
何本か足りないけど歯も生えて、機能してなかった肛門はある程度回復した
笑うようになって泣くようになって怒るようになって、時間をかけて子供らしさを手に入れて


「なんで、俺は・・・僕は、忘れていたんだろ、」

急に、自分が汚く思えた
部屋から飛び出した僕を心配した雷蔵と三郎を振り払って、寝間着のまま裏山へ飛び出す

「い、やだ・・・にたい、死にたいっ・・・!」

走って、叫んだ
生きる価値なしと、ずっと前に言われてたことに、今更気づくなんて

なんで
殺してくれるって言ったのに


「落ちるぞ。」

崖から一歩踏み出した僕を捕まえたのは、僕を殺してくれなかった人
死なせて、殺してと泣く僕に、恩人は口当て越しにそうか。と一言

「悪かったな、生かして。」

手が離されて、僕は真っ逆様に落ちていく

途端に、恐怖した
死にたくない、助けてと、叫んだ

だって、楽しいことも嬉しいことも沢山あって
友もできたし、笑えてた

ドボンと川に沈む
流れが速くて、息が出来ない

「っ、助けてっ!」

肺に冷たい水が流れ込んでくる
苦しくて、息ができない

確かこの先は滝があるはずで
死にたくないと、もがいた


ガボッと大きく水を吸い込んで、僕は・・・



子供は確かに死を願う




賊退治なんて仕事を久し振りに引き受けた男は、廃寺の造りとも古さも違う掘っ建て小屋を前に首を傾げた
残党がいたら厄介だと戸を開ければ、中から溢れる異臭
多分、ドブや肥溜めのほうがまだマシな臭いを放つであろう

「おい、」

声をかければ、虚ろな目でこちらを見る子供
痛ましいほどに傷だらけで、汚物と言っても過言ではないほどに汚れ

刷り込まれたのか、男の下腹部に歯のない口を寄せる、その姿

当然のように反応しない男の制止も聞かずに、子供は必死に甘えるような音をさせながら見上げてくる

「殺してやろうか?」

存在が、不快。だった

頷いた子供の拘束を解いてやれば、抵抗と事の酷さが伺える

「・・・ひへい、」

何かを言われたのは理解できたが、意味は分からない
ただ、子供は羨ましそうに、血濡れの男を見上げているのだ

「・・・名前は?」
「ほふ、はひはえほん、へす、」
「そうか。俺は***だ。」

わかりはしなかったが、頷き
名前を言えば、またこくりと頷かれた

「辛いことがあって、俺を思い出したなら、俺を呼べ。」


死んだら死んだ。
生きるなら生きる。

それなりの力で、峰打ちだが、刀を振り下ろした


結果、記憶を失い生きた子供を、男は正しく生かした
居住食、教育、愛情を与え、生かした

その間、姿を見せずに義務のように陰から見守った
いつか、思い出して死にたがったら殺してやれるように



死にたいと請われたら、男はまた、ギリギリを攻める



沈んで流されていく子供を見送り、背後からくる影二つに向け
手のみで、子供の先を示した

「雷蔵、行っててくれ。」
「うん。」

立ち止まり構える子供に、男は笑う

「殺してやれなかったよ、また。」
「っ、お前!」
「また・・・機会があれば、今度こそは死なせてあげるよ。」

じゃあね。と消えた男に、子供は舌打ち一つ
先へ向かった


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