3 食満留三郎、判定




「食満留三郎・・・で合ってるわよね?はじめまして。」

そう言って頭を下げるのは、俺が昨日見つけた天女様だ

一等性根が悪く、愛されたいと叫び、俺たちをきゃらくたーとかなんとかいう枠に当てはめたがった
そんな一番最初の天女様に酷似・・・最早同一人物だろっていう容姿の天女様

自然と顔が引きつる

「貴方は後輩が大事?」

こいつは、突然何を言い出すんだ
んな当たり前のことを・・・

「当たり前なの?あら?でも・・・死んでるはずよ?一年は組の山村喜三太、蛞蝓が大好きな可愛らしい笑顔の」

ズダン!!

気づいたら、天女様を壁に叩きつけていた
ハッとして離そうとした俺を押しのけて、天女様を殺したくてたまらない俺が顔を出す
駄目だとわかっているのに・・・だ、

「なんでっ、お前たちは次々と際限なくやってくるんだ!!」
「ふふっ・・・愛されたいと口々に叫ぶ天女様たちだもの、愛されるために・・・次々くるんじゃないかしら?」
「妙な妖術で誑かしたって、虚しいだけだろ!」
「幸せだったと思うわよ?色欲に溺れた者達を侍らせて・・・目を覚ましてと叫ぶ後輩を蔑ろにするほど愛してもら」
「黙れっ!!!」

俺の手がかかる細い首は、全力で絞めてるにも関わらず
天女様は苦しまないし抵抗しない

ゾワリと言い知れぬ不安が押し寄せて、俺は慌てて天女様から離れた

「今日は雨かしら?」
「は・・・?」
「・・・女。留三郎になにをした。」

天女様に気を取られ過ぎてわからなかった
近くに、文次郎がいたことに

文次郎の袋鎗の先がさっきまで俺の手がかかっていた首に絶妙な力加減で食い込んでいる
それでも、やはり天女様の表情は変わらない



大きな音がした

昨夜から仙蔵は先生に呼ばれどこかへ行ったし、留三郎と伊作の言い争う声が聞こえたりもして
六年長屋はなんとなくだが、緊張の糸がそこかしこに張られていた

だから、気になった
でなければ、また留三郎か小平太あたりが鍛錬でやりすぎているのかと思ったぐらいだ
もちろん、俺は混ざらない

・・・三木ヱ門を亡くし、俺は自室にまで帳簿を持ち込まねばならぬほど忙しいからだ
左門とよく喧嘩をしてはいたが、三木ヱ門も上級生
三木ヱ門がいない穴は大きい・・・

未だに夢に見る・・・目の前で戦輪に喉を掻き切られ、泣きながら息絶えた三木ヱ門の姿を


誰が悪いのか・・・それは三禁を破った俺たち上級生だ
天女?憎いのは確かだが、天女が全面的に悪いわけではない


「・・・女。留三郎になにをした。」

汗だくで胸元をキツく握りしめ距離をとる留三郎と、無表情な女とをみて
俺は迷わず女に刃を向けた

「私がされたのよ。」
「・・・天女か?」
「いいえ。」

そうか。と言って武器をおさめた俺を少しみて、女はそう。と呟いた
その顔は眉の一つも動かないほどの無表情で、いやな汗が頬を伝う

「田村三木ヱ門を、貴方は貴方なりに大切にしていたのね。」
「・・・留三郎、この女は何者だ。」
「昨日、またおりてきた天女様だ。」
「訂正が面倒ね・・・いいわもう天女様で。」

すっと目を細めた女が俺を探るように見つめ、俺は後退った
得体の知れないなにかが、俺を抑えつけるように威圧する

「な、なんだ、」
「貴方は、田村三木ヱ門に会ったら何をしたい?」
「・・・謝罪と、礼を。」

絞り出した声に、天女はまるでわかっていたかのように眼を細める

「下級生に引かれがちな会計委員長の俺と下級生の間を取り持ち、委員会をスムーズに行うことができていたのだと・・・その礼を言いたい。」
「留さん!!も、文次郎までっ!?」

大した距離はないくせに何度か転んだのか、よれた伊作が慌てた様子で走ってくる
また転びそうになったのを留三郎が支えれば、もう終わっちゃった!?と意味のわからないことを叫んだ

「今終えたわ。」

天女・・・いや、女の発言に
そんな、と口にした伊作よりも、その女の手から溢れた光に目を奪われた
女の、姿にも・・・

「人間では、ないのか・・・?」
「お前、なんなんだ・・・」
「私?私は審判者。それ以上でもそれ以下でもないわ。」

光の一つが俺の前で人の形を成し、一つが留三郎の前で人の形を成した
その姿に息をのむ

「潮江文次郎先輩!」
「食満留三郎せんぱぁ〜い!!」
「三木ヱ門・・・?」
「喜三太・・・なのか?」

呆然としたままの俺に飛びついた三木ヱ門が、笑顔を向けてくれた

「先輩、お礼なら私も・・・潮江文次郎会計委員長のもとにいれて、私は楽しかったです。ありがとうございました。」
「三木ヱ門、お前っ!」

涙が零れ落ちたのは、見逃してくれ・・・




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