「あぁ、やっぱり癒されるなぁ。」


図書室からの帰り道。私は本を胸に抱えながら、ふわふわと軽い足どりで歩いていた。心がとても暖かい。なぜなら、良いことが立て続けに起こったからだ。
ずっと借りたかった本がようやく借りれたこと、そして手続きしてくれた人物が憧れの彼だったこと、そして満面の笑みが向けられたこと。
彼の笑顔を見るだけで私はとても幸せな気持ちになるのだ。


「この気持ちが恋、なのね。」


最初は見てるだけで幸せだった。読書が好きな私は低学年のころからよく図書室を利用していた。彼はその頃から図書委員だったので、図書室でよく姿を見た。だからといって、私と彼の距離が近くなるわけではなかった。むしろ、離れていった。
彼と話すと身体中が熱くなって苦しくなるから話すという行為を減らすために、まずは彼が係りの日は図書室には近づかないようにしていたからだ。
幼かったからこそ、そんな行動をとってしまったのだろう。
しかし、それもある時で終わった。そう、1年前の合同演習で彼と同じ組になった時から。




『えっと、君がしらゆきさん?』

『そうだよ。……不破くん、だよね?しらゆきひめです。よろしくね。』

『うん、よろしく。』




あの日は、ただ男女一組になって課題をこなす、という比較的簡単な演習だったのだけど、緊張した私はまんま罠にひっかかり彼にとても迷惑をかけてしまった。それなのに、彼は笑って許してくれた。あの彼の笑顔に私は励まされたのだ。
その日から私は彼に夢中だ。見るだけじゃ満足できなくて、積極的に彼に関わりに行った。今思うと合同演習が私の恋を動かすきっかけになったのではないかと思う。
今日も彼の笑顔が見れてとてもとても幸せだ。


「おーい、ひめ 。」

「あ、留く…食満先輩!」


ほんわか温かな気持ちで歩いていたら、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、緑色の服を着た1つ上の幼なじみ、留くんだった。


「……留くんでいい。 ひめに先輩と言われるとなんかすげぇ遠くに感じるから。」

「で、でも、先輩なんだし。」

「俺が許す、はい、"留くん"な。」

「……はい、留くん。」


幼なじみとは言え、集団生活を送るこの学園内では、さすがに呼び方は変えるべきだと思い、食満先輩と呼ぶように心がけている。……けど、このように毎回訂正させられるのだけど。ところで留くんはなにか用事だろうか。


「えーっと、ところでどうしたの?」

「特に用はねぇんだけどさ。お前の姿が見えたから声をかけた。」

「そっか。…あれ?留くん、演習だった?」


ニカッと笑う留くんの頬が土で汚れていた。演習か、はたまた伊作先輩の不運に巻き込まれたのか。
私は懐から手拭いを出して留くんの頬をふく。


「なっ、おまっ……!」

「うん、取れた。」

「お、おう。ありがとな。」


留くんはポリポリと頬をかいている。頬は少しばかり赤らみ、目線は下降気味だ。(下級生に拭いてもらうのは恥ずかしかったかな…)
留くんに申し訳なかったなーと反省していると、ぐぅとお腹が鳴る音が聞こえてきた。私のお腹ではないから、彼の虫が鳴いたのだろう。昔から変わらない留くんにクスリと笑みがでる。


「そろそろ夕飯の時間だね。」

「そうだな。よかったら、一緒に食わねぇか?」

「うん!食べよう。」


同じ学園内にいるけれど、くのたまの私と最高学年の忍たまの留くんはあまり会う機会がない。だから、一緒に食べられるのは久々だった。


「本、置いてくるからちょっと待っててね。」

「おう。」


私は体勢を切り替えて、くのたま長屋のある方へと駆け出した。
留くんは笑って私に手をふる。ここからならばすぐに戻ってこれるだろう。
大切に本を胸に抱えて、自室へと急ぐ。今日はとても良い日だ。不破くんに会えて微笑んでもらえておまけに留くんと一緒にご飯を食べることになって。
私は頬を緩ませながら、自室への近道を駆け抜けた。










これはね、恋だよ

(すごく幸せ)(でもね、完全に満たされたわけじゃないの)(もっともっと彼に近づきたいの)





ヒロインの恋心だけじゃつまらなかったので、食満さんを入れ込みました。見事きっつきつなぐだぐだなしめになっちゃいました。


Title:【確かに恋だった】様
20120520



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